【銀魂】九兵衛×東城1【女体有】
まさか性別が変わるなんて事想像もつくはずないのだから。
とりあえずはネットカフェに行って、蛾の天人について調べる事になり服を買った後、こうして歌舞伎町を歩いているのだ。
歩いている銀時の視界に先日できたばかりの甘味処の看板が目に入った。
ピンク色の可愛い雰囲気で気にはなっていたが男一人で入れる空気ではないので入れずにいた店だ。
銀時は隣を歩く東城を見る。東城がその視線に気づいて隣を見る。
いつもは銀時とほぼ同じ身長だが、多少縮んだのか目線が少し低い。
「依頼代、前払いの分払ってもらうか」
「え?」
「とりあえず全額奢ってくれるだけでいいわ、俺ってやっさしー」
銀時は東城の手首を握るとずるずると甘味処へと彼を引っ張って行く。
いつもなら簡単に抵抗できるはずなのにそれに逆らえず、東城は甘味処まで連れて来られた。
目の前にあるファンシーな雰囲気の店に頬がひくつく。
「何を考えておいでで?」
「いやぁ、ずっと入りたかったんだけど女連れじゃないと入りにくい雰囲気でよ」
「私に貴方の女のふりをしろと!?」
「別にそんな事言ってねぇよ。一緒に入って奢ってくれればいいだけで」
あんな女性向けの店で男と女が二人きりで入店したらカップル以外に見られるわけがない。
しかし下手に逆らって唯一の協力者を失うわけにもいくまいと東城は諦めた。
それに思えば、朝から何も食べていない。どんな状況でも腹は減るもので、彼も空腹だった。
店に入ると可愛らしいウエイトレスがやってくる。
少々込み合っているので少しお待ちくださいとの事だった。
入り口のドア近くで待っていると、突然ドアが開いた。
「パフェいっぱい喰うアルー!!」
聞きなれた声が銀時の耳に届いたのと同時に、横にいた東城の身体が派手にすっ飛ぶ。
銀時は反射的にその身体を支えようとしたのだが、それより先に別の腕がその身体を捕えていた。
流れるような黒髪を見て、銀時はやばい。そう思った。
東城は突然の衝撃に足をよろめかせ、細い目をぎゅっと瞑って次にくるであろう衝撃を待つ。
それでも一向にこないその痛みに恐る恐る瞼を開いた。
途端、間近にある自分の主君の顔に息をとめた。彼は語る、冗談抜きであの時は心臓が数十秒停止したんじゃないかと。
「大丈夫かい?怪我は?」
小柄な九兵衛は長身の東城をいとも簡単に支えていた。
女にしてはとても鍛えられた手を腰に回され、身体を極限まで密着させられている。
「神楽ちゃん駄目よ、いくら楽しみだからって人を突き飛ばしちゃ。あら銀さん?」
「ゴメンアルー。あれ、銀ちゃんアル?どした?なんでこんなとこにいるアルか」
銀時は見慣れた顔が三つある事にひくひくと頬をひきつらせる。
どうやってこの状況を説明すればいいのだろうか、やる事がありすぎてどうしたらよいのか分からない。
まず東城を別の女に仕立て上げなければならない。それと彼女と自分の関係、二人がここにいる理由。
でもどうやって?九兵衛にいたっては幼少の頃より東城と一緒にいるのだ。
格好は同じだったとはいえど付き合いの短い銀時ですら東城の正体を見破る事ができたのだ。
九兵衛が気付かないわけないだろう。さらに東城は完全にフリーズしてしまっている。
この世の終わりのような青ざめた顔で自分を見つめる女に、九兵衛は眉を寄せた。
「東城?」
「は、はい!」
「馬鹿!」
「あ、いや、えっと!」
どう見ても女性である人が、部下と重なりその名を呼んでみると返事をしたではないか。
驚きに目を見開く九兵衛の横で銀時が咄嗟に怒鳴ると、東城は失態に気付いて身を震わせた。
銀時は咄嗟に東城の手を引いて彼を九兵衛の腕の中から自分の後ろへと隠す。
「い、いやー、悪いね俺のツレが!」
「ツレっていうかそれ糸目野郎アル」
「違ぇよ!?神楽オメー、レディに向かって野郎はねぇよ野郎は!こいつはだな、こいつは、えーと、えー」
どうしてこんなにも自分は必死で東城の正体を隠そうとしているのだろうか。
銀時は追いつめられていたのだ。それはもう追いつめられていたし、東城も追いつめられていた。
だからこれから言う事がどんなに苦しかろうと何だろうと、とにかく押し通すしかなかった。
銀時は背に隠した東城を三人の前に引っ張り出すと声高らかに言った。
「こいつはおめーんとこの変態の姉貴なんだと!!」
「え?」
東城を含めたその場にいた全員が同時に間の抜けた声を出した。
しかし東城はすぐに銀時の嘘を理解し、ひきつった笑みを浮かべて三人に挨拶をした。
「は、初めまして、弟がいつもお世話になっているようで」
「でもなんで東城さんのお姉さまが銀さんと一緒に?」
「い、依頼をしに来たんです!弟とはもう随分長く逢っていないものですから
元気にやっているのかどうか万事屋さんに調査してもらおうと思って!」
「お名前は」
「とっ、東城‥‥綾だよ」
咄嗟に銀時の口から出てきた名前を聞いて、東城は彼の足を思い切り踏みつけた。
まだ少々顔色が青い東城を九兵衛はじっと訝しげな顔で見つめる。
確かに東城の姉ならば、彼の名字を呼んだ事に彼女が反応した事にも頷ける。
それに彼女は東城に瓜二つだ。髪の色、髪の長さ、着ている着物の趣味、身長、顔立ち、声。
なによりも彼女の纏う空気が、東城歩を連想させて仕方がなかった。
九兵衛の視線が東城の胸元に移動する。東城にはない、女性特有のふくらみがある。
それは決して大きくはないがそれでも、ちゃんとそこに存在している。
もう少し下に視線を移すとくびれた腰と安産型であろう大き目の尻も見えた。
着物から覗く足や手を見る限り、彼女もそれなりに鍛えて武術をしているだろう事は分かる。
東城の兄弟というより、まるで分身が目の前に現れたような不可思議な感覚だ。
「調査も何も、僕の屋敷に来て直接東じょ‥‥歩さんに逢うといいのに」
姉の前で呼び捨てにしてしまった事に気付き、九兵衛は気を使ったように言いなおす。
初めて九兵衛に名前で呼ばれた東城はバッと片手で鼻を抑えた。鼻血が出そうだったからだ。
九兵衛は東城歩にそっくりな綾が顔を真っ赤にしたのを見て拍子抜けしたような顔をする。
別人物とはいえ(本当は同一人物なのだが)、東城の顔が赤らむところを間近で見た事が無かったからだ。
真っ赤になりながら顔を伏せる東城に銀時はすかさず彼の腰の肉をつまんだ。
(お前何してんだ、バレるような事すんじゃねーよ!)
(だだだだって若が!若が私の名前を!ファーストネームを!!歩さんて!)
(そんくらいの事で喜んでんじゃねーよ!)
ひそひそと何やら小声で話している銀時と東城に焦れて、神楽がさっさと空いた席に座りに行ってしまう。
それを見たお妙が困ったような顔をして神楽を諌めた。
「駄目よ神楽ちゃん、銀さん達が先に来てたでしょう?」
「いやアル!腹減ったアル!!」
「ああいや、いいですよ、私達はもうお暇しますので」
逃げるチャンスだと東城は銀時の手首を握ってその場から逃げようとする。
「え、でもパフェ」
「パフェなんて別のところでいくらでも奢ってやりますよ!」
作品名:【銀魂】九兵衛×東城1【女体有】 作家名:えだまめ