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 ゆっくり歩みを進めながら、帝人はそっと臨也を盗み見る。臨也とは毎日のように画面の前で会っているが、それは甘楽であって臨也ではない、現実とネットの中の差異に帝人は臨也との距離を測りかねていた。臨也としての接触が甘楽との接触に比べると極端に少ないからだ。
 ネットでの甘楽と自分との距離は、現実の臨也と自分との距離にそのまま移行されるのだろうか。
 知っているのに知らないとは正にこの事ではないだろうかと帝人は一人胸の中で思う。
 目的の家を目前にして、帝人は自分の頬に冷たいものが当たり反射的に顔を上げた。
 「雨?」
 「違う、雪だよ」
 隣で臨也が宙に手を差し伸べて言う。
 大きな埃のような雪がはらはらとその手に落ちては雫になって指の隙間を伝っていった。
 「都会でも降るんですね、雪」
 帝人がさも稀有な事のように言うので、臨也は笑った。
 「都会でも降るさ」
 「そうです、よね。よく考えれば。ニュースとかでも言われてましたけど、でもやっぱり、雪が降るのって田舎の方な感じがしたので」
 大粒の雪が空から途切れる事なく降ってくるのを見て、帝人は綺麗ですね、と楽しそうに笑った。
 雪でテンションが上がるなんて子どもだなと思いながら、臨也は交通機関に影響が出ないと良いのだけれどと視界を埋める白を眺めた。
 自宅へと続く錆びた階段を上がりながら、帝人ははっとして臨也を見る。
 「でも、このままじゃ電車とか止ったりするんでしょうか。……もし良ければ折原さん、泊っていって下さい。……何のお構いもできませんが、こんなことになったのも半分は僕のせいでもあるわけですから」
 自ら招くには申し訳ない自宅を恥ずかしく思いながら意見仰ぐと、臨也はしばらく考えて、頷いた。
 「…………じゃあ、お言葉に甘えようかな」
 肯定の言葉にほっとした様子でポケットから鍵をとり出す帝人の後ろ姿を眺めながら、本当に最近の若い子は危機感がないなあと臨也は思う。
 こんな風に彼は他の人間もほいほい家に上げるのだろうか、それとも自分に対して信頼でもあるのだろうか。もし後者なのだとしたら、それは大きな間違いだ。
 「帝人君」
 コートについた雪をドアの前で一通り落とし、鍵を開けてドアを開こうとする帝人に向かって臨也は声をかけた。
 「はい?」
 「雪、積もってる」
 振り向いた帝人の髪に臨也は触れる。
 冷たい指先が、帝人の額をかすめていった。
 「空から降ってくる綺麗なものに、害がないものなんてないんだよ」
 そう言って臨也は忌々しげに帝人の髪に落ちた雪を払ったあと、綺麗に微笑んだ。