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【東方】夢幻の境界【一章(Part5)】

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「じゃあ帰るぜ」
 そう言ったのは、玄関の扉の隣に立てかけてあった箒を取りながらだった。
 箒の柄に帽子とマフラーがかけてあったのも、魔理沙は今に至るまで気づかなかった。
「なんだよ、くそ」
 いつも魔理沙の知らぬところで気を配ってくれていたというのに、自分はそれに気づかず、あまつさえアリスの様子がおかしいというのになにも出来ずに帰るしかないという事実に、魔理沙は己の無力さを罵った。
 いつまでもここに居ても仕方ないと諦めてドアノブに手をかけたところで、魔理沙は服の裾を引っ張られたので振り返ると、そこには俯きながら立つアリスがいた。
「どうし」
 「た」と言えなかった。
 アリスは黙ったまま魔理沙を抱きしめ、震えながら長く息を吐いた。魔理沙はアリスより背が低いので、ちょうどアリスの首に顔があたる形になる。そのためアリスがどんな顔をしているのか見えないが、身体がかすかに震え、ときどき肩が痙攣したように動いていることからアリスが泣いていることはすぐにわかった。
「ごめんなさい」
 懺悔するかのような囁きに、魔理沙はなにも言えずただアリスを抱き返すことしか出来なかった。
 アリスに何があったのかはわからない。それでもアリスをこのまま一人にすることなど、出来るはずがなかった。気の利いたことでも言えればいいのだが、魔理沙は自分の語彙の無さを理解しているので、下手なことを言うよりもアリスが泣き止むのを待つことにした。

 魔理沙の肩に回されたアリスの腕が解かれたのは、身体の震えがおさまってからだった。アリスはそのまま魔理沙の肩を両手でわずかに押すように身体を離すと、涙ぐんだ目で魔理沙の目を見つめて消え入りそうな声でもう一度「ごめんなさい」と言った。ただし、それが言葉通りの意味でないことぐらい魔理沙にだってわかった。アリスは言外で「ありがとう」と言ったのだ。
 目元にうっすらと涙を湛えながら、アリスは母親が子供に向けるような優しい笑顔を向けてきた。
 その笑顔を見て魔理沙は思わず頬を赤らめながらも、突然立場が逆転たような気がして少し複雑な気分になった。
「落ち着いたか?」
 その問いに、アリスは小さく頷くことで答えにした。
「で、いきなりどうしたんだよ」
「それは……」
 この問いには顔を背けて答えなかった。
 これはいくら訊いても無駄だな、と判断した魔理沙は、諦めたように肩をすくめてから再びドアノブに手をかけた。はっとしたように顔を上げたアリスに、笑顔で「また来るぜ」とだけ告げて扉を開けた。



 昼前とはいえ冬の空気は冷たく、飛んでいるということもあって頬に刺すような痛みが走る。
 マフラーを口元まで引き上げる。幾分かは寒さを誤魔化せるが、それでも寒いものは寒い。
 しかし、これぐらいの寒さのほうが考え事をする上ではちょうど良いのかもしれない。
「……」
 魔理沙は寒さに身体を震わせながら、アリスの様子がおかしかったことについて考えていた。
 まず、昨晩のアリスと紫のやり取りだ。
 あの二人が一緒にいることも珍しいが、宴会の企画をしていたなどそれ以上に珍しい――いや、これは完全に嘘だと判断していいだろう。そもそも何のきっかけもなしに突然そんなことを企画するような二人ではないし、それをわざわざ魔法を使ってまで隠す必要はないはずだ。もし、他の者に聞かれたくなかったのだとしても、もっとうまい隠し方があったはずだ。
 次にアリスの異様な態度の変化について。
 紫が去ってからというもの、魔理沙の些細な発言に過剰な反応を見せていた。しかも他愛も無い会話の中でだ。実験中はそれ以外の会話がほとんど無かったため気づかなかったが、今朝の会話でのアリスの反応はあまりに奇妙なものだった。特に魔理沙の「宴会なんて久しぶりだ」という発言に対するそれはあまりに異常だった。たしかに一ヶ月で久しぶりというのは大げさだったかもしれないが、なにもあそこまで――
「まてよ」
 もし、魔理沙の発言そのものに驚いたのではないとしたら?
 久しぶり――つまり、時間に関する何かがあったのでは?
 紫との会話は、それに関係することなのでは?
 どれも仮定の域を出ないが、それでもあの二人が何か企んでいるということは確信していた。それはいままでにいくつもの異変を解決してきた魔理沙の勘がそう言っているのだ。
 とは言え、それが何なのかを確かめるにはあまりに情報が少なすぎる。
 家に戻ったら実験結果を魔道書にまとめようと思っていたのだが、少し寄り道をすることにした。
 情報を集めるなら、ぴったりの人物がいる。
「まずはあいつに――」
 途中で言葉を切ったのは、予想外の邪魔者が現れたからだ。
 魔理沙は左手で箒を支えながら、右手で腹部を押さえた。
「腹、減った……」
 ぐぅ、と情けない音がする。
 そういえば、昨晩から実験に集中しすぎて何も食べていないではないか。
 情報収集は、腹ごしらえをしてからでも遅くないだろう。
 魔理沙はまっすぐに自宅へ向かうことにした。