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短編にする程でもない断片色々

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雑談



ああ、どうしてわたしはいつもいつもこうなのでしょう?
昔はこうではなかったような気がする。もっと、もっと己に自信と矜持が満ち溢れ、この世界のどんな人間の横っ面にも反吐を吐きかけて、口角を持ち上げて、ともすれば腹を抱えて笑い出したくなるほどのエネルギーが体内に蓄積されて爆発せんばかりに臓腑を熱く滾らせ、世界はわたしの思い通りであり、あの土地や海や空を全て思うが侭に、自分の趣向にあった様式に変えて、お上品な温室育ちのお嬢さん方がわたしを見つけては袖を引っ張り合って顔を赤らめ、その無垢さとあざとさに微笑をひとつ投げかけて、漏れる黄色い声だの溜息だのに満足して、また軍服を翻してひっそりと権力者の傍らに寄り添って、ともすればわたしが権力の偶像ですらあったというのに、わたしは一体どうしてこうなのでしょう?ああ、わたしは今、死んでしまいたくてたまらない。いや死にたいというよりも、消滅してしまいたい。死ぬというのは煩わしい。わたしの痕跡を消し去るというのも面倒であるし、人様の記憶の片隅にでも残っているというのであれば申し訳がないような、おこがましいような、しかしこっそりと覚えていてほしいような、いや、やはりわたしなんていう社会の寄生虫は跡形もなく消滅してしまうが一番似合いのことのように思えている。ああ、消えてしまいたい。


こんな鬱々とした気分になるのは、この国の天気のせいだろうか。
会議室の窓の向こうは重たい鈍色のぶ厚い雲がどこまでも続いている。まるで地の果て、遠く日本の空まで続いているような分厚さと煙がくすぶったようにぐずぐずとしたはっきりしない雨にも苛立つ。書類の誤字や、司会者が些細に言葉を噛むことや、誰かの秘書がべったりと油っぽい口紅をつけて愛想笑いを浮かべる事や、ソーサーに一滴、コーヒーが零れていたような、そんな些細で普段はまるで気にも止めないような事全てに腹が立つが、腹立たしい、といってしまう程の体力がない。腹の底でぐずぐずと厄介な、やり場のない感情がヘドロのように足をずぶずぶと引っ張り込み、重たい身体が更にぐったりとするようである。最近太ったのだろうか?いやまさか。まるで学生のようにスーツに着られた貧相な身体には筋肉もついていないが変わりに威厳のあるような脂肪だってありはしない。人間の男ならば三十にもなれば男らしい恰幅ある顎や肌を手に入れるだろうが、そんなものだってわたしの身体にはありはしない。なんだか身体が重たい。指一本動かすことさえ億劫だ。きっとこれも全てこの国の天気のせいに違いない。

けれど今のわたしにはこれがお似合いだ。きっと、イタリア君ちやスペインさんちのようなカラッと晴れた宇宙まで突き抜けるように青く高い空の下になど引っ張り出されてしまえばわたしはいよいよ干からびてしまうに違いない。憂鬱な気分がまるで似合わないあの気候の中にあっては、わたしはいよいよ死んでしまいたくなるに違いない。


「菊ぅ?なぁに壁の花になってんの?」

目だけを向ければフランスさん・・・いや、今はフランシス・ボヌフォアさんでしたっけ?どうにも性の発音が上手くできない為、特別な友人というわけでもないのに彼はわたしがフランシスさんと呼ぶことを許してくださっている。きっとわが国の若い娘ならコロッと食われてしまうような、金髪に青い目のいかにも白人といった具合に整った顔に「?」が浮かんでいる。わたしは壁にもたれていた身体を起こして笑みを浮かべようと思ったけれども意識して浮かべる笑みなど得意でもないので、ただ歪に表情筋が浮かび上がる。

「ええ、少し疲れてしまったようで・・・」

わたしもそんなに若くないですからねぇ、と言葉を続けるとフランシスさんは「なに言ってんのぉ、こン中で一番高校生みたいな顔しちゃってさ。ま、その血は太古だってんだからアジアのミステリーだけどね」と喉で笑う。そうして少しアイロニーを滲ませて笑うと、まるで何かの絵のようだ。わたしの着ているような大量生産のスーツではなく、きっとその身体に誂えて作られたであろうスーツはフランシスさんの為に生まれたようにその身体にきっちりと具合がよく収まり、まるで彼そのものがこのスーツメーカーのブランドの広告塔であるかのようだ。イタリアくんならば彼のスーツがどこの物か一目で見抜くに違いない。そしてとんでもない値段をさらりと言いだすんだろう。ああ、わたしなんて月々のエンゲル係数ですら煩わしいのに。

「ったく、英国はいつでもこんなぐずった天気でやんなっちゃう。どうせならフェリシアーノんちがよかったよねぇ、菊」

遠くから「うっせぇ、馬鹿!」とアーサーさんの吼える声が飛んできたけれど、フランシスさんは意図的に、わたしは面倒なので無視をする。アーサーさんは二、三言嫌味を投げたけれどわたしたちには届かない。

「雨になると、どうしても気分が塞いでしまいますらからね」
「あ、そぉ?俺には基本的にいっつもカローシ寸前って印象でお兄さん心配しちゃうんだけど?」
「ではうちの車を買ってくれます?」
「それは無理。俺プジョーしか乗らないから」
「・・・期待はしておりませんでした」
「そりゃヨカッタ」