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踊る、着ぐるみ戦線

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【 踊る、着ぐるみ戦線 】





本日の聖夜祭における仮装はメインの催しだ。
従って、その衣装を着用する時間は必然的に長くなる・・・・・・それはほぼ、一日中と言ってもおかしくはない。



時は既に夕刻。
いたる所に飾られた電飾が点灯し、じきに夜の様相を醸し出す中での仮装行列はたけなわを迎える。
華やかな装飾に彩られた校舎内で非日常を演出する生徒たち―その中で。
一際眩しい光が、止むことなく忙しい明滅を繰り返す一角があった。

「素晴らしい! 素晴らしいですよスイスさん! 」

「お兄さま、とっても・・・・・・可愛らしいです・・・・・・! 」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

そこはクリスマスツリーに見立てて装飾を施された、巨大な記念樹の真下。
初代の卒業生が植樹し、かなりの樹齢を誇るそれは
ツリーにしてはかなりの威圧感・・・・・・いや、非常に存在感のある代物になってしまっていたが、ただでさえ
校舎が果てしなく広大なこの学園。そんなことを気にする生徒は皆無だった。

煌びやかなモールと電飾とにぐるぐる巻きになった巨木のふもとに集うのは、他の生徒に比べると比較的小柄な3人組。
うち2人はカメラを構え盛んにフラッシュをたいており、残る1人はその被写体としてポーズを取らされていた・・・・・・かなり、弱りきった様子で。

思いがけず妹の手作り衣装を身に纏うことになったスイスは、この終わる兆しのない撮影に諸々を消耗していた。
ええい今日限りだ と袖を通し、妹の向けるデジカメの的となっていたのだが、何処から沸いてきたのか
本格的な撮影道具を揃えた日本のそれまで受けることになってしまったのだ。
自分ひとりならば即座に拒絶を示すものの、リヒテンシュタインも嬉々として並んでシャッターを押しているため
おいそれと無下にできないこの状態から既に1時間以上が経過しようとしていた。
妹もほぼ同じものを着用しているというのに、何故自分ばかりが的になるのかが彼には理解できない。

「・・・・・・もうよいであろう2人共」

ひどくげんなりとした体でスイスは両膝に両の手を置き、息をついた。
屈強な戦士である彼といえども、こういった事態にはまったく不慣れであり疲れきっている。
只でさえ着慣れぬ衣装で動き回っていたためか(実は場所を変えるのはここで6回目だ)、寒い時期というのに汗だくだった。
ずんぐりとした両足をもそもそと動かし歩き回る姿は愛らしく見えるが、当の本人にとってはかなりの重労働に他ならない。

「すみません、兄さまがこんなにお疲れでしたのに・・・・・・」

気付かずに はしゃいでしまって と項垂れる妹にはたと我に返り駆け寄るスイスに
新たな被写体を得た日本は再び、フラッシュの嵐を巻き起こし始めた。

「仲睦まじい御兄妹! 微笑ましい、実に微笑ましいです・・・・・・! 」

リヒテンシュタインの両肩に手を置き、そんなことはないと慌てて宥めていたスイスは
妹からは見えない絶妙な角度で振り向き、鬼の形相でギラリと睨みつける。

「気が済んだのなら即刻立ち去れ日本・・・・・・この“エメンタール”の様になりたいか? 」

小脇に抱えている、穴だらけなことで知られる自国名産のチーズ(これは模造品であったが)の名を出して凄むスイス。
頭にはまん丸な一対の耳を付け、襟首にはなんとも愛らしいファーをなびかせているもののいつもと変わらぬその気迫に、日本も一瞬怯みを見せた―と、その時。



作品名:踊る、着ぐるみ戦線 作家名:イヒ