朝焼けと2人と3匹
兄妹の毎朝の日課は、早朝にヤギたちの散歩に出掛けること。彼らは学園の校区内でも
比較的遠方に位置する郊外に居を構えていた。
人里離れた緑の多い場所でもあり、頭数は少ないがヤギたちの他にも鶏や羊などの世話をし、また2人で管理ができるほどの畑も持っている。
毎日の通学には少々時間を要してしまうものの、お互いこの場所が気に入っているため苦にはならないのだった。
やがて身に感じる空気が変わり、ヤギたちの好きな野草が多く自生している川べりへと到着する。
この辺りは街中に比べ開発の手もさほど及んではおらず、両岸もコンクリート等で固められてはいない。
3匹は跳ねるように草むらへ踏み入り、各々好きな所へ足を進めて草を食み始めた。
「・・・・・・リヒテン、大丈夫か? 」
手袋をした両手をすり合わせていた妹を見て、スイスは尋ねた。
家を出た直後より周囲は明るくなってきているものの、気温は相変わらず低いままだ。目の前が川であることも手伝って、思わず身を竦めてしまう。
ようやく視界が利き始めたその時分、兄は妹の服装に目をしかめる。
確かに分厚い上着を羽織ってはいるものの、それは襟首の短いもので、肝心な首まわりがまったく無防備だったのだ。これではいくら着込もうとも体感温度は知れている。
「! 兄さま―」
にわかに自分の両肩にかかった重さに驚いてリヒテンシュタインは傍らの兄を見上げる。
スイスの目線はヤギたちの行方を追ったまま、妹のそれにぶつかることはない。
「・・・・・・そのような上着では寒かろう」
ぶっきらぼうに発せられた言葉を聞いたのち、先程まで兄の着ていたダウンジャケットが自分の肩に羽織らされていることに気付き、リヒテンシュタインは慌てた。
兄さまが風邪をひかれてしまいます と脱いで返そうとするも、しっかりと肩を掴まれ防がれてしまう。