朝焼けと2人と3匹
「我輩はこの程度で風邪などひかん、それよりもっと自分の事を心配するべきである」
「・・・・・・すみません、兄さま」
諭すような言葉が続いて、リヒテンシュタインはしゅんと俯いた。
日頃から気をつけてはいるものの、時折どこか抜けたことをしてしまう自分に溜息が出てしまう・・・・・・その度にこうして、兄の手を煩わせてしまいがちだ。
そんな妹の様子に内心、動揺したスイスはやおら言葉を探し始める。
「あー・・・・・・いや、その。我輩も毎朝、リヒテンには助けられているのである」
何処となくしどろもどろな兄の言葉に、リヒテンシュタインは顔を上げた。頭上に疑問符を浮かべたような表情をしている。
自分が兄の役に立ったことなど、これまでにあっただろうか・・・・・・?
思案を巡らせてみるも、とても見当がつかない。いつも自分が助けられているばかりなのだから。
「こうして毎朝、あやつらの散歩に付き合ってくれることだ。どちらかというとお前に
懐いておるしな。 それに―」
「?」
リヒテンシュタインは、にわかに口篭った兄を見つめた。
相変わらず顔は明後日の方向を向いてはいるが、続く言葉を必死に探す様は手に取るように分かる・・・・・・いや、探すというよりは
自分の意に叶う表現を語彙の範疇で模索し、試行錯誤しているようだった。
「・・・・・・お前と・・・・・毎日、こうして朝日を眺めるのも、悪くはない と思う」
列を成した、薄紫の雲間から。
『今日』を彩る、新しい光がゆっくりと差し込んでくる。冷たく澄んだ空気が少しづつ暖められ、生を帯びたそれになる。
濃紺から紫、橙へと染まりゆく空の下、不意に一陣の風が吹き、2人の頬を撫でていった。
朝日を反射し、淡い光を滲ませて揺れる兄の髪。その下に覗く節目がちな目の奥・・・・・翡翠色の瞳が
忙しなく居場所を求め揺れているのを見て
リテヒンシュタインからふわりと、笑みがこぼれた。
「・・・・・・はい、私もです。兄さま」
優しい金色の光に包まれた川べりで。
のどかに響くヤギたちの食み音が鳴り止むまで、2人はそこに立ち続けるのだった。