兄さまひっし
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ホームルーム中、進行役としてヤギの飼育係を希望する生徒を募ったオーストリアだったが、誰一人として手を上げる者はいなかった。 ・・・・・・が、皆が一様に生き物を嫌っている訳ではなく(寧ろその殆どが動物好きだ)、ヤギに関しては特に適任というのか、恐らく『彼』以外にやらせてはその者の命が危うい という懸念が各々にあり、教室内はしんと静まり返っていた。その中で―
いつも刻んでいる眉間の皺を更に深くし、その身に相当な威圧感を纏わせる生徒がひとり。
窓際の席に座るスイスは、ウサギ、ポニーの担当を希望する者が無事に就いた時まではいつもと変わらぬ様子だった。しかし
ヤギの担当を決める決議が始まった直後から、何が恨めしいのか
黒板の前に立つオーストリアをじっと睨み続け、いざ彼がそちらに目をやるとおもむろに視線を逸らし、窓の外を眺めるという何ともあからさまな態度をとっていたのだ。
・・・・・・そのくせ一向に挙手する気配はないものだから
時間が勿体無いとしびれを切らしたオーストリアが直々に指名する形で、ヤギの飼育係は決定したのだった―
「あの人の、私に対しての意地っ張りはなかなか、治りそうもないですね」
やれやれといった風に息をつき、冷めかけた紅茶を咥内へ流し込む。そして
先刻の彼の取った、なんとも大人気ない様子を再び思い出し、小さく微笑むのだった。