エンジュの中心で愛を叫ぶ。
「・・・・・・で。その様子だと、まだ逢えてはいないようだね。“愛しの恋人”に」
「出逢えてたらお前、今頃こうやってぼんやり歩いてられる訳ないだろう? 」
思わず、噛み付くような言葉を返してしまう。
塔守。自分はジムリーダーでもあり、そしてそれでもある。
一族における自分の役割は単に塔の管理を司り、守ることだけではない― 塔に語り継がれる伝説を担う、
“選ばれた者”なのだ。
友人が茶化してそう呼ぶ“恋人”の御前に唯一、跪くことを許される者。
「・・・・・・今朝もその夢を見た。今回のは特に強烈だった」
ひとりごちるように放った言葉に、ダイゴはひゅぅと口笛を鳴らした。
相変わらず罪作りな相手だね という軽口に次いで、こちらを覗き込む。
「あまり気張っても仕方ないさ、向こうは何てったって『伝説』なんだからな」
友人はそう言って空を仰ぐ。
薄い筋状の雲が、群生する紅い葉の向こうに伸びている・・・・・・既に秋は残り香、冬の足音を感じた。
「お前のご先祖様だって全員が早々、見られたもんじゃないんだろ? しかも
目の前でお目見えするなんて・・・・・・志が高いのは良いけど、無理はし過ぎるなよ」
ダイゴの言葉も重々、承知ではいる。
代々仕えてきた自分の一族。父、祖父、曽祖父、更に続く数え切れない御先祖たち・・・・・・その全員が、御姿を拝した訳ではないのだ。
遠い空の彼方にそれの引いたと思われる光の尾を見た者、また今世に在る言葉では
表現しきれないその咆哮を耳にした者・・・・・・
何千年と仕えてきた中でこうした幸運に恵まれた御仁は、実は数える程も存在しない。
一番最近の事例であっても、数百年も前のことなのだ。
―それが、伝説。
「さて。ジムリーダーが意気消沈してるうちに“ファントムバッジ”獲得しちゃおうかな」
そういえばまだ持ってなかったんだよね と笑う友人の言葉にマツバは我に返る。
「・・・・・・うるさい、それが文字通りの『大誤算』っていうんだよ! 」
お互いが身を引き一定の距離を保つと同時に、各々の手に握られたボールが放たれ光が発せられる。
それぞれの相棒が悠然と現れ対峙すると、それは合図もなく始まった。
作品名:エンジュの中心で愛を叫ぶ。 作家名:イヒ