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復讐へ至る幸せへ至る復讐1

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私は貴方のお人形。
貴方を護ると約束したの、貴方の傍に居ると約束したの。
私にはなんの力もないけれど、動く事も話す事もできないけれど。
それでも貴方が私を愛してくれる限りずっと傍にいる事はできるわ。
貴方が幸せになれるならなんだってするわ、メルツ。




メルツは街へは出てはいけないと、幼い頃から母に言いつけられていた。
突然光を目に宿した事ができるのは魔女の子供だからと噂を立てられていたからだ。
だからメルツは自分と母親以外の人間といえば
少し前まで住んでいた森で出逢ったエリーザベトしか知らない。
時々よその人間を見かける事もあったが、母はその都度メルツを外へ遊びに行かせた。
母やエリーザベトから街や国の人間のお話を聞いては外を焦がれたが
メルツは森にいる動物達も自然も愛していた為、そこを離れようとは思わなかった。
母が教えてくれた歌と、エリーザベトがくれた人形があれば幸せだった。

「ねぇ、エリーゼ。ムッティから聞いたんだけど、この国に王子様がお生まれになったんだって。
 王子様っていうのはね、この国で一番偉いお方のご子息なんだそうだよ。
 だから、毎日美味しいものを食べられて、素敵な服を着る事ができて、きっと素敵だねって
 そう僕が言ったんだけれど、ムッティはそれは違うって言うんだ。
 王子様というのは国の為に自分を犠牲にしなければならないから大変なんだって。
 好きな事もなかなかできなくて、決められた事ばかりで大変なんだってさ。
 だから、こうやって友達とお話ができて自由に遊べる僕の方が幸せなんだって。
 ‥‥んん、嬉シイワ、メル、私ト一緒ナノハ幸せナノネ?
 そうとも!勿論だよエリーゼ!」

裏声を使ってエリーゼの声真似をしてから、メルツは嬉しそうにエリーゼを抱きしめた。
そんな裏声を使わなくたって私は貴方に同じ事を心の中で訊いていたのよ、とエリーゼは思ったが
彼女は人形だった為、表情を変える事もできずただ心の中で彼に抱きしめられた事に歓喜した。







国に王子が生まれたと騒がれてから何度か朝と夜を繰り返したある日
愛しい我が子をベッドに寝かしつけてから、テレーゼは窓の傍にある椅子に座った。
そしてふと机の上を見ると、ちょこんと息子の親友が可愛らしく座りこんでこちらを見つめている。

「あら、メルったら‥‥大事なお譲さんをこんなところに忘れて」
(そうね、でも今日のメルはとっても眠そうだったし仕方無いわ)

まさかエリーゼが心で返事をしているとは気付かず
テレーゼはそっと彼女を抱きあげると、裁縫道具を取り出してからまた椅子に座る。

「また服が解れてる、貴女も大変ね。メルったら遊ぶのに夢中になってレディへの気遣いを忘れて」

エリーゼはメルツの母親の事も大好きだった。
彼女もまた、メルツと同じように自分の事を人形以上のまるで人間のように扱ってくれる。
お気に入りのドレスのほつれた部分を針と糸で縫いなおしながらテレーゼは優しい声で言った。

「王子様がお生まれになって国中は大喜びだけれど、私はそうは思わないわ。
 こんな改革の乱世に生れてはきっと苦労なさってしまうでしょうに。
 この国の人間はほとんどがそう、まるで人間を駒か何かと勘違いしているの。
 簡単に引き離して、見捨てて、奪って、殺してしまう」

外を見上げれば暗い空いっぱいに輝く星達がある。

「世界の作為も世間の悪意も知らぬまま育つあの子と、それの中で生きなければならない王子様。
 どちらが幸せかなんて私には分からないけれど、あの子にはメルの方が幸せだと言ったわ。
 ‥‥そうしなければ私がやるせないの、耐えられなかったの」

テレーゼの美しい顔が辛そうに歪むのを見てエリーゼは悲しくなった。
きっと優しい彼女の事だから、メルツを幸福だと思おうとするが為に
見も知らぬ王子様を不幸と決めつける自分を責めているのだろう。
できる事ならその小さな手をのばして彼女を慰めたかったが、それは叶わない。
エリーゼはメルツやテレーゼを愛せば愛す程、自分が人形である事が悲しくなった。
テレーゼは腕の中にいる人形の顔がどこか悲しげな事に気付いて、小さく微笑んだ。

「ごめんなさいお嬢さん、こんな事を話してしまって」
(いいのよテレーゼ、貴女のお話相手になりたいの)

人形は答えないが、何故か慰められている気がしてテレーゼは目を細める。
数年前に不思議な声に呼ばれて掘り起こした井戸。
するとまるで掘り起こした礼をするかのように、盲目だったメルツは視力を持ったのだ。
今でも印象深く覚えている、聞こえてきた愛する息子の声――‥‥






長い時間をかけて掘り起こした井戸はどこか物々しい雰囲気を放っていた。
見えもしない闇が井戸を取り巻いているような気がして
ひょっとすると自分はとんでもないものを呼び起こしてしまったのではないかと寒気がした。
疲れ果てたテレーゼは服が土で汚れるのも気にせずに井戸の横に座りこむ。
不思議な声で彼女を呼び続けたはずの不気味な声はもうどこからも聞こえない。
空を見上げれば太陽は西へと沈み始めている、早く食事の支度をしなければ。
そう思っていると、突然家の中からメルツの叫び声が聞こえていた。

「ムッティー!!」
「‥‥メルツ!?」

悲鳴にも似た幼い我が子の声にテレーゼは顔色を変えて慌てて家の中へ戻ると
メルツが両手で顔を覆ってしゃがみ込んでいる。
しゃくりあげるように泣いているメルツを見てテレーゼはメルツの両肩を掴んだ。

「メル、どうしたの?どこか痛いの!?」
「わかんない、わかんない‥‥!目が変なんだ!」
「目が‥‥!?」

生まれながらにして視力を持たぬ子ではあったが、更に目が病にでもかかったのだろうか。
テレーゼはそっとメルの小さな両手を握り彼の顔から放す。
すると、今まで焦点の合った事などない可愛らしい瞳がテレーゼの方を向いた。

「‥‥メル?」
「うぅ‥‥、目が熱い‥‥」

そう言いながらメルツはゆっくりと小さな両手をテレーゼの方に伸ばす。
小さな可愛らしい手がテレーゼの両頬を包んだ。
涙で歪む不思議な世界で、目の前にある温かい何かを見ようとメルツは初めて目を凝らした。
そこにいたのはこの世と思えぬほどに美しいものだった。
母に聞いて、メルツは世界に溢れる自分には見えぬものを想像したが
そこにはメルツが想像していた以上に素晴らしいものが溢れ返っていた。

「‥‥ムッティ」

溢れる嬉しさを抑えることなくメルツは微笑んだ。
どうして目が見えるようになったかなんて幼いメルツにはまるで分からない。
ただ生まれて初めて観る世界にただ興奮した。
熱いと思っていた"眩しい"という感覚にも慣れ、メルツはテレーゼの肌や髪を触る。

「これが肌色、これが黒‥‥これが白?」
「‥‥メル、見えるの?」
「これが"見える"なの?」

目と目が合う、その感覚がどれほど喜ばしいものなのかをテレーゼはその日初めて知った。
溢れ出る涙はそのままにテレーゼはメルツを抱擁する。

「ああ、神よ‥‥!有難う御座います!有難う御座います!」
「ムッティ?」
「メル、メル、良かった‥‥良かった‥‥!」