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復讐へ至る幸せへ至る復讐1

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それからテレーゼはメルツに今まで教えられなかった事をたくさん教えた。
一緒に花畑に行って、赤の花、白の花、黄色の花、色とりどりの形と色をした花を見せて
そこで青空から美しい夕焼けを見届け、満天の星空をメルツに見せた。
メルツが光を手に入れた事で今まで以上に幸せになれると思っていた。

「ムッティ、どうしてこれを投げられたの?」

無邪気な笑顔で石を握ってそう尋ねてくるメルツを見るまでは。





それからテレーゼはメルツを決して村には近づけさせなかった。
目が見える事によって、魔女の息子だとメルツまでも批難の目を浴びる事になってしまった。
光を得たメルツは嬉しそうだが、それはまだ世界の作為や世間の悪意を知らないからだ。
いつまでもこうして森の中に引きこもっていられない事はテレーゼはよく分かっている。
それでもメルツに辛い思いをしてほしくない。

(テレーゼ?)

人形に呼ばれたような気がして、テレーゼははっと過去から現実へと引き戻される。
まるで心配しているかのような人形のどこか悲しげな表情にテレーゼは再び笑みを浮かべた。

「今日は冷えるから、いつもより星が綺麗ね」
(そうね、まるで降り注いでくるよう)
「あら、流れ星」

流星が夜空を彩るのを見てテレーゼはそれがエリーゼにも見えるように彼女を窓際へ座らせる。

「流れ星には願いを叶える力があるそうよ。
 ‥‥メルツが、どうかあの子が幸せになりますように」

テレーゼは両手を組んで夜空に向かってそう祈った。

「お嬢さん、貴女は何をお願いするのかしら」

そうね、とエリーゼは考えた。
大好きなメルツの幸せはテレーゼがもう祈ってしまったし、どうしたものか。
テレーゼの幸せを祈ろうとも思ったが、きっと彼女の幸せはメルツが幸せになる事だろう。
ならば、とエリーゼは夜空にお祈りをした。

(王子様も幸せになれますように)

見も知らず、誕生したこの国の王子様も、メルツとは正反対のその王子様も。
どうぞこの世界の美しさに気付き、幸せになれますように、と。
たまにはメルツ以外の誰かの幸せを祈る事も悪くはないだろうと
エリーゼは星へそう祈ったのだった。











しかし、世界とはなんとも非情なものだった。













(嗚呼!噫!ああ!アア!メル!メル!メル!)

エリーゼはあらん限りの悲鳴もあげられぬ自分の身を呪った。
井戸の底へと落ちたメルツの腕に抱かれたまま
動かない彼の名を呼ぶ事も助け起こす事もできない。
どれほど落ちたのかも分からない、メルツはただ眠るように暗闇に横たわるだけだ。

(許せない許せない許せない許せない!メル!メルツ!)

この子が一体何をしたというのだろうか。
罪のない命を簡単に井戸へと堕とした男達をエリーゼは呪った。

(殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル)

美しい硝子の瞳から鮮血の涙が零れおちた。
どうして自分はこの子を助けてやれないのだろうか、どうして復讐すらできないのだろうか。
世界と我が身をエリーゼは呪い続けた。呪いの言葉を魂で叫び続けた。

「可哀想に、こんなに幼いのに」

突然、聞きなれぬ男の声がエリーゼの耳に届いた。
その声にエリーゼは硝子の目玉を動かしてメルツの頭のあたりを見る。
するとそこに一人の青年が立っていた。

「貴方ハ誰」
「初めましてお嬢さん、私はイドルフリート・エーレンベルク。イドと呼んでくれ給え」
「メルニ触ラナイデ」
「そんな冷たい事を言わないでくれないか。
 この子の事は君が知る前より知っているんだ」

そう言いながらイドルフリートはメルツを抱き上げた。
エリーゼは男の腕に抱かれるメルツを見て、彼を取り返そうと小さな手で地面を這った。

「メルヲ返シテ」
「いいや、この子は私が貰う」
「駄目ヨ!許サナイワ!!メルハ私ガ護ルンダカラ!メルハ渡サナイワ!!」
「‥‥ふむ、困ったな」

たいして困ったような顔をせずイドルフリートはメルツを抱えたまましゃがみ込む。
目の前の人形の美しいドレスが白と黒に染まるのを眺めながら彼は口を開いた。

「取引をしようじゃないか、エリーゼ」
「ドウシテ私ヲ知ッテイルノヨ」
「見ていたからね、ずっと。‥‥数年前の事だ。
 まだテレーゼがこの地にやってくる少し前、私はある男を護る為に殺されてしまった」
「貴方ノ昔話ナンテ興味無イワ、メルヲ返シテ」
「まあ聞き給え。私はね、この井戸に落とされたのち井戸ごと生き埋めにされたんだ。
 生きていたら今ごろ、子供のところに帰っていたろうに。
 妻が子供を身籠ったっていう手紙を貰ったんだ、女の子だったら嬉しいな。
 ‥‥しかしそれを見る事も叶わずに私は死んでしまった。
 とても苦しかったよ、息ができなくて、永遠の闇を彷徨うようで、恐ろしかった」

そんなある日、テレーゼがやってきたのだ。
テレーゼに呼び掛ければ彼女は声に反応し、井戸を掘り返してくれた。
そしてその礼をする為にイドルフリートはメルツに光を与えたのだと言う。

「私はこの世が憎い、真っ当に生きたはずの私が死ななければならなかったこの世界が憎い。
 それは君も同じじゃないだろうか、エリーゼ。
 君もメルツが死ななければならなかったこの世界が憎いだろう?」
「‥‥エエ、憎イワヨ」
「それなら、復讐するんだ」

にっこりと笑ってイドルフリートは片手を彼女へと差しだした。

「この世界に復讐しようじゃないかエリーゼ。
 この世界には私やメルツのように、理不尽に死んでいった悲しき者が溢れ返っている。
 私達は生き返る事はできないが、せめて同じ苦しみを持つ者の為に復讐を繰り返し
 このやり場のない憎しみを緩和しようではないか」
「復讐」
「そうとも。私の力を全てこの子に受け渡そう、私はもう世界を怨むに疲れてしまった。
 私がこの子に力を託せば、生き返る事はないが、その屍体は再び動き出して君の名を呼ぶだろう。
 井戸の外へと出て歩きまわり、歌う事だってできるだろう」
「メルガ‥‥」
「否定の言葉は吐かない方が賢明だ。君がそうして動いて喋れるのも私の力のおかげなんだからね」

エリーゼは躊躇うようにイドルフリートに抱かれるメルツを見つめる。
イドルフリートの呪いの言葉は、今やエリーゼには神の言葉に聴こえた。

もし、もう一度、もう一度チャンスがあるなら、今度こそ私が彼を護るから。
例え屍体であろうともう一度生き返ってくれるのなら、その目に私を写してくれるのなら。
今度こそ全ての悲しみから彼を遠ざけて幸せにしよう。
この不条理な世界へ復讐を果たす事がメルツの幸せならば、喜んで加担しよう。

エリーゼは小さな手でイドルフリートの差しだされた手を握った。

「交渉成立だ」













目の前に横たわる、青年の姿。
エリーゼはただじっと、何年も何年も彼が目を覚ますのを待ち続けた。
美しかった肌色は青白く変わり、血の気の無い真っ青な唇、黒く染まった髪の毛。
イドルフリートと同じほどの年齢に変わったメルツは眠り続けている。
生きていれば、もっとメルツは美しかった事だろう。