復讐へ至る幸せへ至る復讐1
それでも、いつか目を覚まして動いてくれるならば、姿が変わろうともう構いはしない。
エリーゼは飽きもせず何年も何年もメルツを眺め続けた。
そして或る日。
ついに瞼が開かれ、濁った金色の瞳がエリーゼを捉えた。
「嗚呼、メル!ヤット起キタノネ!オハヨウ!」
エリーゼは歓喜した。
今の自分はメルツに触れる事ができる、声をかける事ができる、意思を伝えられる。
永い時の中でずっとメルツに何を話そうか考えてきた。
今まで一緒に遊んでいた時こんな事を考えていたのよ、
野菜は好き嫌いしないで食べなきゃダメじゃない、
テレーゼに黙ってそっと野菜を捨ててたの知ってるんだからね、
そういえば私もメルツが好きだったあの黄色い花が大好きなのよ、
何から話そうからしら、何から話せばいいのかしら、ああでも時間はいくらでもある。
「‥‥君は、誰だい」
「‥‥エ?」
「此処は‥‥何処?どうして僕は、私はこんなところに‥‥私は誰、だ?」
混乱したようにその男は両手で頭を抱える。
エリーゼは愕然とした。覚えていない、自分の事を。
怯えたようにこちらを見るその男を見て、エリーゼは悟った。
(嗚呼、メルツはもう何処にもいないのね)
幼いメルツはきっとイドルフリートと共に暗闇の奥底で眠ってしまった。
彼とメルツが融合して新しくできた存在こそが目の前の青年なのだろうと。
(それならそれで構わないわ)
目の前のこの子は、悲しい思いを忘れている。
殺されてしまった事もすっかり忘れ、エリーザベトの事すら忘れている。
エリーゼは硝子を細めて笑みを浮かべた。
「ハジメマシテ、メル、私ハエリーゼ、ヨロシクネ」
「‥‥エリーゼ」
「サア、復讐シヨウ」
貴方の幸せの為に、この世界に復讐しましょう。
エリーザベトの代わりに私は貴方を護るって誓ったんだもの。
ずっとずっとずっと、貴方の為に復讐を続けましょう。
大丈夫、今度は貴方を絶対に幸せにするから、だってそれが私の存在理由なのだから。
「どうして泣いているの?」
「嬉シイカラ。ダイスキヨ、メル」
張り裂けそうな胸の痛みは気にせず、エリーゼは歪な笑みを浮かべてそう言った。
そして復讐劇は幕を開ける→
作品名:復讐へ至る幸せへ至る復讐1 作家名:えだまめ