Kissing cousins
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引っかけは単純であればあるほど、真偽が分かりにくくなるとは言うが。
それはあくまでも、引っ掛けられる方が経緯も何も知らない場合に限られる。
というか、無理だろ、こんなの。
いくらなんでも突貫にも程がある、とは思うが。
これがもし本当にこちらに何も情報がないまま偽の証拠なんかが見つかった場合、確かにきっとややこしくかつ面倒くさいことにはなったとは思う。
きっと先に情報を掴んだという幸運も味方したんだろうけれど。
「ま、さっさと決着付きそうでよかったじゃないスか」
「化かすのはこっちのが上って事ですかね」
そう、どっちかっていうと根回し勝ちといおうか。
まぁ、これでこの事態を面倒がっていたこの上司の不機嫌からはとりあえず逃れられる、はずだ。
一安心、と胸を撫で下ろした部下を前に、上司は薄く笑って首を振った。
「まだまだ、だな。長年権力の座に居座り慣れた年寄りは、色々な所にツテがあるからな。資産家との繋がりも多い。そんな一気に蹴り落とすとなると結構厄介だからな。今回の閣下も素直に応じるかどうか」
「え、そうなんスか?こりゃてっきりこれネタに圧力でもかけんのかと」
「とっ捕まえた奴と証拠と証人が揃えば立件できそうだが、さすがに全部は揃わんだろうからなー。もっと直接的な繋がりの証拠が欲しいとこだが」
「難しいだろうな」
「な。まー今回は証人押さえて証言取れりゃ、軍内では規律がモノを言う分、風評ってのも結構なダメージになるだろ。あーゆー上になればなるほど噂は気になるだろうし。お歳がお歳になると進退の2文字も見えてくる」
「不名誉な不祥事での引責と、自主的な退役。どちらが体面を保てるかなぞ、分かり切った2択だし」
「そうそう。まだ選択肢用意するだけ優しいよなぁ、オレたち」
うんうん、って。頷く所なんですか、それ。
・・・楽しそうだ。
ものすっごい、楽しそうだ。
うわーろくでもねー、この2人さいあくー、いんしつー、とか。色々な単語が頭を過ぎった気がするが、取りあえず口には出さない異にする。
周りの連中も似たり寄ったりの顔をしていたから、部下一同(中尉除く)の心はきっと一つだったに違いない。
にや、とそっくり同じ表情で笑う2人は、何歳なんですが、と聞きたくなるくらい、あえて言うなら非常に悪餓鬼ぽかった。
ああ、この2人が親友同士って何か納得。
あんたらすっごい似てますって。
そう言えば、2人して盛大に否定するんだろうが。
きっとそう言って否定する表情までそっくり同じになるんだろうなぁと思えば微笑ましく、なくもない。
しかし、士官学校の同期にこんなのいなくてよかった、と。
2人の少尉がちらりとお互いに視線を交わして、そう思ったのは秘密の話だ。
end
作品名:Kissing cousins 作家名:みとなんこ@紺