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赤銅の記憶

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ほんまや、親分変やんな。変やから電話切るわぁ、と言葉を続ければ受話器の向こうでロマーノが待てとか、そんな意味じゃねぇ、とか慌てて言う声が聞こえたけれど、俺は、愛してるでぇ、と言葉ひとつ続けて電話を切った。ジリリリリリ、と鳴り続ける電話の音も耳に入らんまま、外に広がるスペインの大地を眺めとったら、なんや腹の底がじりじりと熱くなるようやった。


この町はあかん。
俺の記憶が濃い。
―――――――俺が世界の中心やった頃のエネルギーが、この町の記憶に触れて燻ってしまう。


菊はこんな気分にならへんのやろうか?亜細亜でデカい面しとった頃の高揚感や征服欲を思い出したりしやへんのやろうか。ならへんかもしれん。菊は今は随分苦戦しとるようやけど、それでもその技術力でそこそこ世界の中枢におるし、菊は大昔からずっと菊やったんやし。俺みたいに、失った半身を捜すような気にはならへんのかもしれん。じゃああのアドナンのおっさんはどうなんやろ。イスラム世界を牛耳ってた頃の快感に足を掴まれたりしやへんのやろか。ああ、あのおっさんは脱皮したでな、俺とはちゃうわ。ああ、あのおっさんにはやられたわ。アイツんせいで随分狂わされたわ。ああ、腹立つわー、ほんま腹立つで。ああ、腹立つ腹立つ腹立つ・・・と何度繰り返しても別に腹は立たへん。もう魂が忘れとるんかもしれん。記憶でなく歴史になってしまったんかもしれん。そうしてしまうと俺の手の中からそういった生々しい感情がずるずると滑り落ちていって、あとは歴史というぶ厚いデータブックにファイリングされてしまうから、もうそれは俺やないんかもしれん。

この町に縛られる理由かて、俺が俺やった頃の俺の影を探してるんかもしれん。
窓の外では西の空に薄く雲が延びていた。そろそろ雨季や。うちの自慢の野菜がたっぷり水分を取る、雨季や。恵みの雨や。ああ、待ち遠しいわ。雨ん中、血反吐に紛れたきったない体であいつらと騒いで大酒飲んで踊り狂ったわ。この世界の万物全てを手にするつもりやったわ。ああ、そんなんやった。

今はもう、アラセリもおらん。アリハンドロもおらん。マルティネスもおらん。誰もおらん。俺と馬鹿騒ぎして世界を知ってたやつらはもう誰もおらん。この町におる俺は、都会から流れてきた無職の若造や。それだけや。もう誰も俺を知らん。あの古城ん中で一番偉い椅子に座って腹抱えてわろとった俺はもうどこにもおらへん。あれ?俺はなんでこの町から離れたんやったっけ?俺はなんでこんな居心地のえぇ町を飛び出したんやったっけ?俺、逃げるようやったわ。ああ、なんでやろ・・・なんでやろな・・・。



――――――アントーニョ、俺はもうすっかり草臥れた腰の曲がった老人になった。でも、お前はいつまで経っても変わらんな。“昔”のままや。お前は、




「ロマーノ、親分すぐ帰るでな。すぐ帰るしな」


窓に持たれて目を閉じた。心なしか水の匂いがしたような気がした。
また、雨季の季節が来るんや、この町に。


作品名:赤銅の記憶 作家名:山田