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飛牙マサラ
飛牙マサラ
novelistID. 13959
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The lovers of the age differen

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「はい?」
 ゼロスは思いもよらない質問にフィリアの顔を覗き込む。
「いえ、そりゃあね、あなたが私より絶対年上のなのは間違いないんだけども何となく気になってしまって……」
 フィリアとしてもそれがどうというわけではない。ただ、街での友人などから同い年でしょうとよくゼロスとのことを言われるとどう答えるべきかちょっと考えてしまうのだ。
 人から見れば確かにゼロスとフィリアは同い年くらいに見えるだろう。でもそれはあくまで見かけの話であり、実際は違う。ゼロスの方がフィリアよりも長く時を生きている。けれどどのくらい違うのかと問われれば分からない。
 もとより人と違って正確な年などあまり必要性がない。まして神族のように定例の儀式を持つことが少ない魔族にとっては余計に意味をなさないものだった。
 なものだからゼロスとしてはフィリアの問いの真意を測りかねた。ここで間違えばまた何か恐ろしい勘違いをされるのかと警戒すらする。
「知ってどうするって言うんですか? そんなこと」
 フィリアは一見物分かりがよいが、一度箍が外れるととんでもない事をよくしでかしてくれるからゼロスの心配が杞憂とは言い難い面があった。
 何となくゼロスの心配に心当たりのあるフィリアは苦笑しつつ、
「別に深い意味なんてありませんよ。ただ単純に知りたいだけですよ」
 と努めて明るく答えた。実際、純粋な疑問を抱いたに過ぎないからゼロスが年齢について語ればそれで終わりではある。
 とは言え、その問いに答えるのはゼロスとしては実は簡単ではない。何しろ年齢などというものに固執したことがないために人にとって当たり前なことすら彼にはないものになる。
「……僕がいつ生まれたかなんてことは恐らく獣王様でも覚えていらっしゃらないんじゃないでしょうかね」
 それが正直なところだ。魔族で誕生日を祝うなど聞いたことがないし、勿論ゼロスもそんな真似したことがない。
「フィリアは覚えて?」
 自分の答えが相手の満足いくものではないことは重々承知しているが、それ以上言えることもないので相手に尋ね返すことにする。
 フィリアはそうですねと一言添えながら、ゆっくりと返事を返した。
「正確なものかは知りませんが、一応巫女の端くれとしては扱われてましたので」
 必要以上に儀式に拘る一族だったからこそ生誕の日などありとあらゆるものが記録されてはいた。ただ自分の一族があまりにも正しくないことを知っている今は自分の生まれた日の記述が正しいかすら分からない。
「千歳くらいなのは確かでしょうけど」
 フィリア自身は降魔戦争を直接知ってるわけではないが、両親が確実に健在だった頃の話はその辺りからはじまることを考えてもあまり間違いではないだろう。
「そうですね、それは間違いないでしょう。で、僕は多分フィリアより千年は余分に生きてますよ
 少し沈んだ顔になったフィリアの顔を覗き込み、にこやかに微笑いつつ、ゼロスはフィリアの頬に口づける。
「お互い長生きですね」
 わざととぼけた口調でそう言い、ウィンクしてやる。そうすることでフィリアが抱いた不安を払拭してしまいたかったのだ。そしてそれは十分に甲をさす。
「そうですね。でも、もしも人の身なら逢うことすら叶わなかったかしら」
「それこそ安心して下さい。僕やフィリアが人でも何でも絶対逢って差し上げますから」
 根拠がないと言われようが、ゼロスにはフィリアと逢う自身が絶対的にあった。それがどんなに困難だろうが、立場が違おうが、必ず彼女との愛を成就してみせると。
 ゼロスがあまりにもはっきり断定するものだからフィリアは自分が抱いた不安が無用なものだと理解した。
「まったくあなたはいつでも凄い自信ですね」
「僕はしつこいですからね、何度でも逢ってみせますよ、あなたに」
「有り難う、嬉しいです……」
 フィリアはゼロスの胸に自分の頭を預けて、擦り寄る。こんなときは恋人の温もりが嬉しくて堪らない。
「こういう時は人ならぬ身で良かったなと思います」
 そっと手を恋人の頬に当てて、フィリアは幸せそうに微笑う。
「だってあなたに逢えたから」
 そう、ゼロスがいなければ今こうして自分が生きている意味だってなくなってしまうくらいに彼を愛している。
 フィリアが例え他の何を失っても失いたくない、たったひとつのもの、それがゼロスだった。
「私、あなたを千年前から愛してます」
 当然その頃に二人は逢ってなどいない、けれど不思議とそれが真実だとフィリアには分かっていた。
 そしてゼロスにしてもそれは同じであり、ただ負けず嫌いだから彼女よりも先んじるふうに告げる。
「なら僕はあなたが生まれたときからあなたを愛してますよ」
 フィリアはクスクス笑いながら負けず嫌いの恋人をやさしく見つめた。
「まったくもう、負けず嫌いですね、あなたは本当に。でも逢えたなら嬉しかったな」
 本当に逢えていたのならどんな風に変わっていたのだろう。過ぎ去ってしまった過去にもしもと言うものはないけれど、考えてみたりすることは出来る。
「いつだろうとも僕らは気が付かないうちにきっと逢ってますよ」
「そうですね、きっとそう」
 お互いの指を絡め合い、どちらからともなく互いの顔を寄せてゆき、そっと唇を寄せ合う。
 そうして重なる影はいつまでも離れようとはせず、一つの影であり続けた。それはあくまでも魂と魂の触れ合いのように清廉で、純粋な行為だった。
 互いに失えないものとして、まるで混沌の最初から比翼の鳥となるべく定められたかのように愛を寄せていく。
 外はいつの間にやら闇に包まれ、街は眠りに眠りにつく時間となっていた。
 神魔を超えて、愛という絆で結ばれた二人を祝福するかのように天空には満月が大きく輝き、窓から差し込む光で照らすのだった……