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ゆるぎないものひとつ。

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「もういい!」

怒りを過分に含んだ赤い目がドイツを睨む。ドイツはそれを見つめ返す。プロイセンはふいっと顔を背け、

「お前なんか知らねぇ!!」

と、一言、吐き捨て、消毒液臭い病室を出て行く。それを見送りドイツは溜息を吐く。それと同時にずきりと右の脇腹が痛む。その脇腹は六時間程前、プロイセンとドイツと上司と地方の巡察中に起こった上司を狙った狙撃事件で負ったものだ。壇上で民衆を前に演説する上司を狙う銃口に真っ先に気付いたのはプロイセンで物も言わず、壇上に駆け上がり、上司に突進し、「伏せろ!!」と怒鳴るのと同時にダン!と銃弾がプロイセンの髪を僅かに掠めていく。壇上にSPが駆け寄り、上司を囲い下りていくのは瞬く間のことだった。場内は突然の出来事にパニックになった逃げ惑う人々が一斉に入り口へと詰め寄る。プロイセンは今だ壇上に居て、狙撃場所を確認するように赤い目を巡らせている。ドイツは上司の無事を確認すると壇上へと駆け上がった。入り口に向かい殺到する人々の間、二階席から何かが光るのが見えた。明らかにそれはプロイセンを狙っていた。

「兄さん、危ない!」

ダンっと腹部を熱いものが貫く。一瞬、何が起こったのか解らずドイツは瞬いて、それと同時にかくりと膝が落とす。プロイセンの赤が驚愕に見開かれるのと同時に至近距離で、素早く安全装置を外しトリガーを引き、弾が放たれる音が響いた。
「チッ、距離が届かねぇ!クソが!」
舌打ちが耳に遠い。
「二階座席のC1エリアだ、絶対に逃がすな!!」
プロイセンの怒鳴り声が響く。じくりと腹が熱い。

「ヴェスト!しっかりしろ!!」

プロイセンはドイツの着ていたスーツを脱がし、自分のスーツを脱ぎ、その場で着ていたYシャツを脱ぎ、裂くとドイツの腹に巻きつけた。そこに担架が運ばれてくる。

「ヴェスト!」

自分を呼ぶ声だけが、耳に聞こえる。「大丈夫だ」とそう言いたかったが、ぶつりとそこでドイツの意識は途切れた。自分の意識が無い間に銃弾を取り除く手術が行われたらしい。気がついた時には白い天井が見えた。そして、ベッドの脇、祈るように指を組み、自分を見つめる赤と視線が交わった。

「…に、い、さん?」
「この、馬鹿!」

安堵に一瞬緩んだ赤が瞬時に苛烈な色に変わる。目を開けた瞬間に怒鳴られるとは、ドイツは思いもしなかった。プロイセンは自分に対して今までに見たことが無いほどに腹を立てて、怒っていた。
「何、考えてるんだ、てめぇは、のこのこ、壇上に上がって来てんじゃねぇよ!」
「…だって、兄さんが、」
「だって、じゃねぇ!お前、自分がどんな立場にあるのか全然、解ってねぇだろ。お前は「ドイツ」で「国家」そのものなんだぞ?発砲の危険がある場所に出てくるなんて何、考えてんだ!何で、上司と会場を速やかに出なかった!」
「兄さんが残ったからだ。狙撃は上司を狙ったものだったし、まさか、あなたを狙って狙撃してくるなんて思わなかったんだ」
「俺のことなんか、気にしてんじゃねぇよ!上司を気にしろ!」
「上司にはSPが付いていたし、俺がいなくても問題ないと判断した。状況を把握しておきたかったし、あなたに怪我がないかと心配だったんだ」
「俺の心配なんかしなくていい。それより、何で、俺を庇った」
赤に睨まれ、ドイツは口を噤んだ。自分を庇ったことに対して、プロイセンは腹を立てているらしい。ドイツは息を吐いた。
「タイミング的に自分が盾になった方が早いと判断した」
「あ?不戯けんなよ、誰が盾になってくれなんて言った?盾になるのは俺なんだよ。お前は守られてればいいんだ。余計なことはするな!」
「それは、納得出来ない」
ずっと今まで守られる立場だった。でも、体も成長し、今や目の前のプロイセンよりも体の厚みはあるし、鍛えてきたつもりだ。それは目の前にいる危なっかしいひとを守りたかったからに他ならない。なのに、それを余計なことだと、プロイセンは言う。ドイツは眉を寄せた。
「俺の勝手な判断だ。あなたを庇いたかったから庇った。それの何がいけないんだ?」
そう言葉を返せば、プロイセンの白い頬に血が上ってゆく。それをドイツは見つめる。どうして、プロイセンがこれほどまでに自分に対して怒っているのかまったく理解出来ない。

 子どものような癇癪を起こしてプロイセンが部屋を出て行き、ドイツはどうしてプロイセンが怒っていたのかを考えるが、見当も付かない。どうしたら、許してくれるだろうと考えるが、自分がしたことが悪いことだとはドイツには思えなかった。







 血が頭に昇った状態で病室を飛び出し、プロイセンは息を吐く。…上司に連絡を入れなければと思うが、上手く頭が回らない。
 目の前で、青が見開き、苦痛に歪んだ瞬間、目の前が真っ暗になった。瞬間、自分の中で何かがキレた。場内で発砲するなんて、何て、自分は馬鹿をやったのだ。下手すれば逃げる市民に怪我をさせていたかもしれない。自分の頭を打ち抜きたくなるほどに失態を犯した。プロイセンはガッと額を壁にぶつけると息を吐いた。
「…あー、上司に連絡、入れねぇと…」
そう思うが先の光景がフラッシュバックする。プロイセンはその場に蹲り頭を抱えた。自分の不手際を棚に上げ、頭に血が上って、怪我人相手に八つ当たりもいいような言葉を投げつけてしまった。自分の不甲斐無さが許せなかったし、ドイツに怪我を負わせてしまった。…一体、何のために亡国になった今も自分は存在しているのだ?それは、ドイツを守るためだ。それなのに、ドイツに怪我を負わせた。…自分は何をしてるのだと自責の念が大きくなる。吐き出すように息を吐けば、目の前に影が立つ。それに顔を上げれば、ずいっと紙コップが突き出された。

「何、やってんだ?…まあ、これでも飲んで、落ち着け」

「…ザクセン」
長い付き合いでいがみ合っても来たし、この間までは愚痴りながら一緒に金にならない仕事に励んだ青年がそこには立っていた。思えば、ここはザクセンの管轄の地区だ。プロイセンは「ダンケ」と小さく言葉を返し、湯気の立つコーヒーのカップを受け取った。
「ドイツは?」
「目覚ました。銃弾は臓器を外れてたし、二、三日様子を見て大丈夫なら、退院出来るって」
「そっか。大したことなくて良かったよ。でもまあ、悪かったな。ウチの警備が不備出して、ドイツにもお前にも迷惑掛けたな」
「いや、…十分にお前んとこの警備班とウチと念入りに打ち合わせはしてたし、入場を見てたがこれといって怪しい奴も、手荷物チェックも引っかかる奴居なかったしよ。油断してたぜ」
「…だな。これと言って、予告も無かったしな。でもまあ、ドイツには悪いが、上司にも市民にも怪我が無くて良かったよ。…あ、狙撃犯は確保して、連邦警察に引渡し済みだ」
「…そっか。…あー、そういや、ウチの上司は?」
「予定を全てキャンセルして、公邸に戻ったよ。ドイツを心配してた。…ってか、動機はまだ吐いてないけど、狙撃犯は旧東側の人間らしい。大方、格差の不満からの凶行で間違いないだろうってさ」
「…あー…」
プロイセンは言葉を切る。ザクセンは手にしていたコーヒーを啜った。
作品名:ゆるぎないものひとつ。 作家名:冬故