ゆるぎないものひとつ。
「連絡網、早いからなぁ。…あ、プロイセン、お前、暫く、背後には気をつけろよ。バイエルンが「プロイセン、貴様が付いていながら、ドイツに怪我させるとは何事だ!」…って、すげー、剣幕で打ち切れたからな」
「…メンドクセ」
プロイセンはげんなりした顔で呟く。それに、ドイツは眉を下げた。
「怪我は兄さんの所為ではない。俺から、バイエルンには連絡を入れておこう。…皆には心配を掛けてすまなかったな。ザクセンには本当に迷惑をかけた」
「何、言ってんだよ。お兄さんはプロイセンだけじゃないんだから、もっと頼ってくれていいって。てか、俺の方こそ、お前には今回のことは謝らないとだ」
「いや、謝ってもらうことはない。上司は兄さんのお陰で無事だったし、狙撃犯もちゃんと捕まったし…。この怪我は俺の責任だから」
申し訳なさそうにそう言ってくるドイツの頭をわしわしとザクセンは撫でる。それに、ドイツはびっくりしたように目を見開いた。
「プロイセンに育てれられたにも関わらず、お前、ホント、いい子に育ったよな。お兄ちゃんは嬉しいよ」
「は?俺に育てられたにも関わらずって、何だ!」
ザクセンの言葉にプロイセンが牙を剥く。それにザクセンは肩を竦めた。
「いや、だってそうだろ?お前と来たら、俺ん家に土足で入ってくるわ、俺のものー!とか言って勝手に色々奪っていくわで、傍若無人を絵に描いたらお前になるって感じだし。ホント、お前にドイツを任せて大丈夫かって、何度思ったか…」
「傍若無人で悪かったな!でも、ちゃんと育っただろうが!」
「うん。反面教師になったのが良かったのかもな」
「ザクセン、てめぇ、俺に喧嘩売ってんのか!」
「兄さん、ザクセン、ここは病院だぞ。やめてくれ!」
掴み掛からんばかりのプロイセンにドイツは声を掛ける。それにぶすりと頬を膨らませる。プロイセンを見やり、ザクセンは皿から二羽目のうさぎを手に取った。
「…でもま、プロイセンも本調子に戻ったみたいで俺もほっとしたよ」
「あ?」
「ドイツのことでガラにも無く、落ち込んでたからねぇ。ちょっと前のお前を思い出したわ」
「思い出すな!」
「ちょっと前?」
ドイツが尋ねれば、うさぎを租借し飲み込んだザクセンが目を細め笑った。
「昔も今も、変わらずにプロイセンの一番はドイツ、お前なんだなって思って。…俺はやっぱり自分が一番になっちゃうからな、お前らの関係が少し、羨ましいけど…ってか、いちゃつくなら、家帰ってやれ」
「うっせ!」
それにプロイセンが怒鳴る。
「じゃあ、俺、仕事もあるし、帰るよ。じゃあな」
三羽目のうさぎを咥え、四羽目を掻っ攫って、ザクセンは部屋を出て行く。それを見送り、プロイセンが悪態を吐く。
「何しに来たんだ、あいつは…」
「…多分、見舞いだろう」
「…林檎、ほとんどあいつが食ってった。ムカつく」
六等分された林檎は一羽しか残っていない。ドイツはプロイセンの手を取り、握ったままのフォークに刺さっていた林檎の口にする。
「兄さん」
租借し終え、プロイセンを見つめれば、赤は先程までのことなど忘れてしまったように見つめてくる。
「林檎」
「おう」
差し出される最後の一羽目。…もう甘えられる年ではないし、寧ろ、甘やかしたいと思っている相手にたまには甘えてみるのも悪くはないかと思う。…最後の欠片を租借し、飲み込んでドイツはプロイセンの腕を掴んだ。
「…林檎もいいが、兄さんが食べたい」
「…治ったらな」
色よい返事と共に、口付けが落ちた。
作品名:ゆるぎないものひとつ。 作家名:冬故