なにより嫌う束縛をなによりも愛した
「アレは別にそういう意味じゃないよ!」
「…なら、どんな意味があるのよ」
ジッと臨也を瞳を見つめていれば、そのうち気まずいというように逸らされた。
それに苛付いて、顔を覗き込んでみる。すると今度は顔全体を逸らそうとするから、最後まで言わないでおこうと思った言葉を言うことにした。
「…離婚、しようかしら」
「…!ちょっと待って、それだけは…っ」
「じゃあ…、してくれる?」
そう言えば、何か諦めたような溜息をついて言いづらそうに言葉を紡ぐ。
「…君が綺麗だからだよ」
──はい…?
予想していた言葉を遥かに超えた返答がきたことに戸惑った。
今まで臨也のことをおかしいおかしいとは思っていたけれど、今ほど分からない日本語を聞いたことはない。
本当に大丈夫か、もしかしたらどこか頭でもぶつけたんじゃないかと額に手を伸ばそうとして、その手を掴まれる。
「波江が、綺麗だから」
見つめる臨也の瞳に吸い込まれるかと思うほどに切なくて、魅入ってしまう。
「君が視界に入るだけで俺の理性が危うくなるんだよ…抱きしめて、ベッドから出したくなくなる。だから、部屋を別にしようと思った。シズちゃんと殺り合って帰ってきた時はまだ気持ちが昂ってるから、君を見たら何をするか分からないから、寝ててほしかったんだ。出張は、君と離れて少し、頭を冷やそうと思った。……ごめんね、ちゃんと愛してるから、だから──泣かないで?」
「え…?」
「気づいてないの?波江、また泣いてる」
そう言われて、頬に伝っている涙に気づく。
今日は何回目だろう、自分がこんなにも弱い人間だったことに驚いた。
臨也に掴まれた手が、そのまま彼の頬に当てられる。
「愛してる」
囁かれた言葉にまた涙が溢れて、止まらない。
いつもの曖昧な言葉と態度ではなくて、臨也の真剣な思いが伝わってくる。
「わたしだって、」
彼の言葉で重かった心の鉛が消えていった。
愛してる、その言葉だけ拘って捕らわれながら。
彼の愛に傾いて、溺れる。
「あ、い、して、る」
fin.
作品名:なにより嫌う束縛をなによりも愛した 作家名:煉@切れ痔