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月下部レイ
月下部レイ
novelistID. 19550
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チョコレート・レクイエム

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「きっとこの人も、おまえが苦しんでるのは、見たくねえだろうな」
もし自分が奏なら、そう思うだろうことが口をついて出て来た。
「跡部」


「忍足、俺は奏さんの前ではっきりと言う。恋人として付き合って欲しい。答えは急がねえ。おまえがゆっくりと考えればいい。
たとえ、それが無理でも、おまえと俺の友情はかわらねえ。わかったか」


「跡部、俺のこと好いてくれとるん?」
「ああ、初めて人を恋しいと思う気持ちがわかった気がする」
「俺は……正直言うて、怖い」
「怖い?」
「好きになったら、また失いそうで、怖いんや」
「忍足」
「また失うようなことになったら俺。もう耐えられへん」
真摯に跡部を見つめる瞳の奥が、震えているような気がする。
「大丈夫だから」
そっとその身体を引き寄せ、自分の腕の中に閉じ込めた。
「約束する」
忍足の目の前に小指を差し出した。小指を絡ませて、指きりげんまん。
自分がこんなことのできる人間だということも、跡部は初めて知った。
忍足のためなら、なんでも出来そうな気がした。
「おまえを一人になんか、絶対にしない」
「跡部」
忍足の身体優しく抱きしめたまま、緩やかな時の流れに任せていた。

不意に。快い暖かな風が、通り過ぎて行った。
気持ちよくて、まるで大地に包みこまれたような安穏な時間。
次第に忍足も落ち着きを、取り戻して行く。
表情も穏やかに。綺麗な笑顔に跡部も安堵する。
きっと、奏が忍足に穏やかなこころを取り戻してくれたのだろう。
あの風が、連れ去ってくれた、壊れた心。
少しずつ傷口は消えていくだろう。その助けを少しでも自分が出来たら。
いや、するのだと跡部は改めて覚悟する。



「監督とは、あんまり仲良くするなよ。もう二人きりで会うのはやめてくれ。めちゃくちゃ妬けるからな」
「跡部って、そんな奴やったっけ」
いつもと変わらぬ表情で微笑んだ。跡部もほっとする。
「俺もびっくりだ。嫉妬っていう言葉の意味が、今までわからなかったのにな」
二人して見つめあって笑った。

「俺だって、本気で人を好きになるなんて思ってなかった」
本当のことを言うと、こんなに突然切ない、くらい人を好きになるなんて。
今も信じられない。でも理屈ではないのだ。
お決まりのように、恋はするもんじゃない。落ちるものだと聞いたことがあるが。
今まさに、自分は落ちてしまった。

忍足の心の傷を、自分が癒してやりたいと思う。
好きで好きで、しょうが無い。
付き合った女の誰一人にも感じなかった感情を、目の前の忍足が教えてくれた。
おまけに、嫉妬という妙な感情まで実地で知ってしまった。
独占欲が強いということにも気がついた。いろんなことを教えられる。


「なあ、跡部。俺は、もしかしたら……あいつに似とるから、跡部のことが気になっとるんかもしれへんで。そんなんでもええんか。
……それより前に、人を好きになるのが怖いんかも」
正直な気持ちを、跡部にぶつけてくれることが嬉しい。
忍足がもうずっと長い間執着していた相手だ。簡単に忘れられるとは跡部も思ってはいない。
失うという怖さを知った忍足が、本当に人を好きになることを恐れる気持ちも痛いほど理解出来た。
少しずつでいい。ゆっくりでいい。忍足が自分自身で気持ちの整理をつけて、自分のことを、恋人として受け入れてくれるなら。
それまで、忍足の傍らで待っていようと思う。

「最初は身代わりだったとしても、おまえは必ずこの俺、跡部景吾を好きになるさ」
「すごい自信やね」
と再び微笑む。
「任せとけ、絶対に好きにさせてみせる」
本当は自信なんてないが、今はそう断言するしかないだろう。
「……跡部」


「来年のバレンタインも、ここに二人で来よう」
「おん」


手を差し出すと、その手を握った。
手繋いだまま、二人で歩き出す。


「車は帰したから、おまえの好きな映画でも観に行こうぜ」
「久しぶりや、映画なんて」
忍足は気づいていなくても、初めてのデートだ。跡部はくすりと笑った。

たわいない会話が続く。
この一年間。テニス部のチームメイトとしていろんなことを話して来たが。
今この瞬間。
二人の間を流れている空気の種類が変わったことを、忍足も感じているに違いない。


「あっ!」
「あぶねえ」

綺麗な空やねと、忍足が見上げた瞬間、足元の小石につまずいてバランスを崩した。
倒れかけた身体を跡部が支えるが、足場が悪く支えきれずに、一緒に転んでしまった。

忍足を庇った跡部の上に、忍足が覆いかぶさる形になった。

「ごめん」
慌てて立ち上がろうとする忍足の後ろ頭に手を回し、ぐいっと自分の方に引き寄せた。
そのまま近づいて来た唇にチュッと音を立てて、自分の唇を押しあてた。
びっくりしたようだったが、抵抗する気配は無い。

唇を解放してやると。
「な、なん。跡部。それは性急過ぎるやろ」
はにかみながら、呟いた。
確かに。さっきゆっくり答えを出せと言ったのは自分なのに。

「嫌だったか?」
声は無かったが、忍足は何度も頭を横に振った。
赤く染まった頬が、可愛い。
どうも自分は、少々イカレテしまったらしい。



これがきっと、恋と言うものなのだ。
理性を簡単に、吹き飛ばしてくれる。


「なあ、跡部、お願いやから俺のために、怪我とかせえへんでな。
もうこれ以上、好きな奴が傷ついたり、いなくなったりするのはごめんや」

「言ったな、忍足。好きな奴って」


「あっ」



プロポーズまでしてしまった。
なりふり構わない恋の始まり。

繋いだこの手を決して、離しはしない。


「そうや、学校にも荷物取りにいかな、俺コートも置いて来とる」
「ああ、その時は、監督にちゃんと言えよ。もう大丈夫ですから、ここには来ませんって」
「……おん」





「それに、今日はバレンタインデーだ。告白の記念に甘ーいチョコをプレゼントしてやる」
「俺……甘いもんはにが……」
「なんだって、俺様がプレゼントしてやると言ってんだぜ、アーン!」
「ありがたく頂きます。俺からも跡部にプレゼントしたるは、抹茶のトリフ」
「おまえ、チョコまで和風が好きなのかよ」

もっともっと君のことが知りたい。2月14日。





幸せを紡ぐ、鎮魂歌。





fin.