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はぴたぬ!

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人間の住む街から遠く遠く離れた森の奥。
その森の中に、とある1匹のたぬきがいました。



「やーいやーい、できそこないー」

「できそこないのへっぽこたぬきー」

「たぬきのくせにばけられないなんてへんなのー」

『タ…タヌだって…タヌだって…!!』



そのたぬきは、たぬきなのに上手く化けることが出来ませんでした。
兄弟も、仲間も、みんな上手に化けられるようになったのに、
そのたぬきだけはどうしても上手に化けられませんでした。



「くやしかったら化けてみろよー」

「ニンゲンになってみろよー」

『タヌだって…できるもんっ…!!』



たぬきは一生懸命人間に化けようとしますが、
顔にはヒゲが、目の周りにはくまが、
お尻には尻尾が生えたままでした。




「プッ…あれがニンゲンだってよー」

「ニンゲンってしっぽはえてんのかよー」

「なーなー、こんなへっぽこたぬきほっといて、行こうぜー!!」

『うっ…タヌ…だって…タヌだって……!』



上手に化けられなかったたぬきは、
みんなに仲間外れにされていました。
いつまで経っても誰も一緒に遊んでくれません。

悲しくて、悔しくて、誰も優しくしてくれなくて。


どうして自分は変化ができないんだろう。
どうやったらみんなみたいに人間らしくなれるんだろう。

たくさんたくさん考えて、
そこでたぬきは、あることを思いつきました。



『よし、がんばってニンゲンのことばをおぼえよう!
 そうしたら、ちょっとくらいへんげがヘタだって、
 みんなあそんでくれるかもしれない!』



それからたぬきは、一生懸命勉強をしました。
みんなが楽しそうに遊んでいる時も、
1人で頑張って人間の言葉を覚えました。



『ねぇねぇ!みんな聞いてほしいんだも!
 タヌね、タヌね、ニンゲンのことばがしゃべれるようになったんだも!』

「・・・・・・」

「・・・・・・」



1人頑張ったたぬきは、みんなの前で人間の言葉を披露しました。
きっとこれでみんな認めてくれる。
きっとみんな一緒に遊んでくれる。

そう思ったたぬきの瞳は希望に満ち溢れていました。



―――ですが、それも束の間。



「なんだよこいつ…ニンゲンのことばしゃべってるぞ…」

「きもちわるい!たぬきなのにニンゲンみたいだ!」

「へんげはできないのに、ことばだけしゃべれるなんてへんなのー!!」

『え………え―――…?』



仲間たちから投げつけられたのは、冷たい言葉ばかりでした。
みんな、褒めるどころかたぬきを気持ち悪がりました。



「たぬきのできそこないー!」

「でてけー!このむらからでてけー!」

「こいつやっぱりたぬきじゃなかったんだ!
 だからへんげもできないし、ニンゲンのことばなんかしゃべるんだ!」

『まっ…まってほしいんだも…!ちがうんだも…!!』



たぬきは必死でみんなに気持ちを伝えようとしました。

自分はたぬきだ。
出来損ないなんかじゃない。
ただ、みんなと遊びたいだけなのに。

でもみんな、聞く耳を持ってくれません。



「こっちくんな!にせものたぬき!」

「そうだあっちいけよにせものたぬき!」

「にーせもーのたーぬき!にーせもーのたーぬき!」

「ニンゲンのせかいにかえれー!!」

『ちっ…ちがっ…タヌはっ……ふめっ―――…!!』



いくら話そうとしても、みんな聞いてくれません。
話そうとしても、石を投げられる始末。

みんなの投げる石も、言葉も痛くて。
たぬきは泣くのを抑えられませんでした。

次から次から涙は溢れて、
それでも次から次へと石が飛んできて。

耐え切れなくなったたぬきは、思わずその場を駆け出しました。



「もうにどとかえってくんなよー!」

「できそこないのあほたぬきー!!」

「せいぜいがんばってニンゲンにばけてろよー!!」

『うっ……うっ……タヌ…は…タヌは………』



たぬきは、ただひたすら逃げました。
走って、走って、どこまでも走って。
生まれ育った村が見えなくなるくらい走って。

もう聞こえないはずなのに、
ずっとみんなの罵声が頭の中に聞こえていました。

一緒に遊びたかっただけなのに。
ただ、それだけなのに。
そのためだけに頑張ったのに、どうして。

どれだけ考えても、答えは出てきません。
ただ悲しい気持ちで心の中がいっぱいになって、
みんなの声が聞こえないように、どこまでも走りました。



『・・・・・・ッ!!』



どこまで走ったのか、もうわかりません。
住んでいた森はもう遥か遠く。

何かにつまずいて転んだ先に見えたのは、
今まで一度も見たことのない人間の世界。
こんなにも人間の世界に近づいたのは、初めてでした。



『どうしよう…ここ…どこなのかぬ………』



見回してみても、知っているはずがありません。
ずっと走ってきたので、お腹もペコペコです。

走っていた間は気付きませんでしたが、
体力ももう限界で、動けそうにありませんでした。



『タヌは…タヌはただ…みんなと……なかよ…く………』



人目につかない路地裏で、たった一匹。
疲れ切ったたぬきは、その場に倒れてしまいました。

仲間や兄弟のいるあの森にも、もう帰れない。
人間に見つかって、捕まって食べられてしまうかもしれない。
もしかしたら、誰にも見つからずにこのまま死んでしまうかもしれない。

一瞬頭に過ったそんな考えさえ気にすることが出来ないほど、
たぬきは心も体もボロボロになってしまいました。
作品名:はぴたぬ! 作家名:ユエ