はぴたぬ!
「・・・・・・ん?開かない?
ドアの前に何か―――…なんだこれ?たぬき?」
暫くして、たぬきが寝てしまった路地裏で、一件のお店のドアが開きました。
中から出て来たのは、ウェイター姿の男性。
ウェイターが少し重たいドアを開けると、
そこにいたのは寝てしまっているたぬきでした。
『ん・・・ふめ・・・・・・』
「タヌキが・・・喋った・・・・・・?」
一瞬自分の耳を疑いましたが、
どう見ても周りには音を発しそうなものはありませんでした。
どこかで転んだのか、人間に虐げられたのか、はたまた泥遊びをしたのか。
タヌキの体は泥だらけで、所々怪我の痕もありました。
「ぬいぐるみ…じゃなさそうですね…。
でも、こんなところにたぬき…?どうして…?」
『タヌを…いっぴきに……しない…で…ほしい…も………』
「・・・・・・」
疲れ果てているのか、
たぬきは、動かされても起きることはありませんでした。
たぬきが日本語を喋ったことにあまり驚かない自分自身に驚きつつ、
その発せられた言葉に、ウェイターはドアを閉めようとした手を止めました。
『タヌは…みんな、と……いっしょに………』
たぬきの目には、うっすらと涙が浮かんでいました。
ウェイターは暫くを見つめた末に、
薄汚れてしまったそのたぬきを両手で拾い上げました。
「まったく…私も妙な拾いものをしますね………」
オーナーや、スタッフのみんなに何を言われるだろうと思いつつ、
ウェイターはたぬきを連れて建物の中へと戻りました。