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半径100メートル内で世界平和を

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そうしたことを、トムさんちに行ってぼそぼそと報告した。
「新羅の見舞い行ったら変態男がいたので撃退した」というだけなのだが、裏にあの野郎がいたということが俺の怒りを増幅させていた。
でも話し終えた俺の頭をトムさんがくしゃくしゃと撫でて、えらかったな、と言って。

「でも、なんか、こう、むかむかしてて。あのノミ蟲野郎は勿論ぶち殺してぇんですけど、新羅に対しても、なんか怒ってるんすよね」
「ちゃんと本人が報復するっつてんだろ?」
「そうなんすけど。なんか、もどかしいっつーか」
「・・・頼ってほしかったわけだ、静雄君は」
「え」
「違ぇの?」
「・・・あー。そう、なのかな」

それで、言い訳に使うなってことなのか。
人のこと、見透かしたみたいに言いやがって。

「よしよし」
「なんなんすか」
「んー。新宿に行かずにトムさんち来てくれてうれしいな、と」
「い、きません、よ」
「迷ったくせにー」
「迷ってません!」
「そっか」

頭がぐしゃぐしゃになって、トムさんが嬉しそうに笑っていて、俺は怒っているのに宥められてしまう。
なんだか昨日と同じだ。
結局のところ、比重はいつもこっちに傾くのだ。
自分が幸せな方向へ。

「・・・なんか、俺って、自分のことばっかですね」
「みんな、そんなもんだろ。俺もそう」
「え、トムさんは、やさしいっすよ」
「お前にやさしいのは、お前に好かれたいからだし」
「う」

さらっと言われて、固まる。

「今日も泊まってくよな?」
「うう」

この人は、どうしてこうも、俺を甘やかすのが得意なのか。

「唸ってないで、返事」

ん?と下からのぞきこまれる。

「う。は、い」
「よし」

新羅がひどい目に遭ったのに、自分だけ、と思うとやはり少し居た堪れなくなる。
ので、わずかでもストレスを軽減するために、寝る前、セルティにメールを送った。新羅が寂しがってるぞ、と。まぁ、間違ってはいないし。あの二人は俺が口出す余地のないほどお互い充足してるっぽいし。こんなメールひとつで新羅のとこへ行くかもわからないし。余計なお世話なんだろうけど、気持ちの問題だ。

トムさんと、心おきなくいちゃつくために、世界は少しでも平和であるべきなのだ。