涼と熱
モニターとの真剣なにらめっこ一本勝負に一旦ケリをつけて、ふーっと息を吐く。
集中している間は気付かなかったが、やはり少し暑い。
適正冷房温度が高めに設定されているから仕方ないのだが、長時間はちとキツい。
マシン室にでも逃げ込むか、と大きく伸びをしていると、デスクの上の携帯が揺れた。
発信者は営業一部、部長だ。
「はい、システム部、長曾我部…。は? 今すぐ? ……打ち合わせ? ……わかった。今から行く」
俺は後輩達に手早く指示を出すと、打ち合わせ用にと用意してあるノートパソコンを抱えてシステム部の部屋を出た。
「よぉ。助かった!」
営業一部部長の伊達は俺の顔を見て、軽く手を挙げた。
カフェ内の喫煙ブースでタバコを吸いながら、カップを傾けている。
抱えたノートパソコンを置いて、向かいの席に座る。
俺の分のコーヒーは既に用意されていて、細かな気遣いのよさを見せている。
「打ち合わせってのは口実だろ?」
俺がそう言うと、伊達は軽く笑った。
「一人でぼんやりしてたらサボってるように見られるだろ」
「俺と一緒でも思われるんじゃね?」
「一人よりは言い訳しやすい」
「まあな」
伊達はタバコを揉み消して、カップのコーヒーに口をつけた。
店内から向けられる視線が痛いのには、伊達は無関心のようだった。
「そんなに見られたら、照れるだろ」
「何で俺が見てて、照れるんだよ。周りに熱い視線を送ってる方々が沢山いるってのに」
伊達は拗ねたようにふいっと横を向いて、押し黙った。
「伊達?」
「忙しいんだろ?」
話をガラリとすり替えやがった。
相変わらず、俺中心なやつだな。
「…別に。俺としては涼みに来れてツイてた」
「…そういう優しいチカちゃんが好きだ…」
「え?」
「悪かったな。呼び出して」
「伊達?」
「チカちゃん、忙しいんだろ。無理して来たんだろうが」
伊達は苦笑して、一枚の紙を差し出してきた。
俺が提出した進捗管理表だった。
「これを見れば明らかに忙しいのはわかる。断れば良かったのに」
俺は軽く息を吐いた。
「素直じゃねぇな。来て欲しかったんだろうが。もちろん、俺も伊達の誘いだから来たんだけどな」
「チカちゃん…」
目を丸くして、俺の顔を見つめる伊達を見て、笑みが零れる。
「そんな顔、してんじゃねぇよ、他の会社の役員に怖いと恐れられてるやつが」
「いや、だって、てめぇが…」
嬉しいこと言うからっ、と小さく呟く伊達はきっと、他の人にこんな顔は見せないだろう。
些細な優越感に浸りながら、テーブルの上にあった進捗管理表を裏返して、ペンを走らせた。
集中している間は気付かなかったが、やはり少し暑い。
適正冷房温度が高めに設定されているから仕方ないのだが、長時間はちとキツい。
マシン室にでも逃げ込むか、と大きく伸びをしていると、デスクの上の携帯が揺れた。
発信者は営業一部、部長だ。
「はい、システム部、長曾我部…。は? 今すぐ? ……打ち合わせ? ……わかった。今から行く」
俺は後輩達に手早く指示を出すと、打ち合わせ用にと用意してあるノートパソコンを抱えてシステム部の部屋を出た。
「よぉ。助かった!」
営業一部部長の伊達は俺の顔を見て、軽く手を挙げた。
カフェ内の喫煙ブースでタバコを吸いながら、カップを傾けている。
抱えたノートパソコンを置いて、向かいの席に座る。
俺の分のコーヒーは既に用意されていて、細かな気遣いのよさを見せている。
「打ち合わせってのは口実だろ?」
俺がそう言うと、伊達は軽く笑った。
「一人でぼんやりしてたらサボってるように見られるだろ」
「俺と一緒でも思われるんじゃね?」
「一人よりは言い訳しやすい」
「まあな」
伊達はタバコを揉み消して、カップのコーヒーに口をつけた。
店内から向けられる視線が痛いのには、伊達は無関心のようだった。
「そんなに見られたら、照れるだろ」
「何で俺が見てて、照れるんだよ。周りに熱い視線を送ってる方々が沢山いるってのに」
伊達は拗ねたようにふいっと横を向いて、押し黙った。
「伊達?」
「忙しいんだろ?」
話をガラリとすり替えやがった。
相変わらず、俺中心なやつだな。
「…別に。俺としては涼みに来れてツイてた」
「…そういう優しいチカちゃんが好きだ…」
「え?」
「悪かったな。呼び出して」
「伊達?」
「チカちゃん、忙しいんだろ。無理して来たんだろうが」
伊達は苦笑して、一枚の紙を差し出してきた。
俺が提出した進捗管理表だった。
「これを見れば明らかに忙しいのはわかる。断れば良かったのに」
俺は軽く息を吐いた。
「素直じゃねぇな。来て欲しかったんだろうが。もちろん、俺も伊達の誘いだから来たんだけどな」
「チカちゃん…」
目を丸くして、俺の顔を見つめる伊達を見て、笑みが零れる。
「そんな顔、してんじゃねぇよ、他の会社の役員に怖いと恐れられてるやつが」
「いや、だって、てめぇが…」
嬉しいこと言うからっ、と小さく呟く伊達はきっと、他の人にこんな顔は見せないだろう。
些細な優越感に浸りながら、テーブルの上にあった進捗管理表を裏返して、ペンを走らせた。