えんじぇる☆ぱにっくす
ルシフェルは聞けばなんでも答えてくれた。なにやら執行部と呼ばれる集団に所属しているらしく、学園のことにとても詳しかった。廊下を歩けばいろいろな人間に声を掛けられるし、授業中に携帯電話を開くという不真面目ぶりにもかかわらず先生方も彼には一目置いているようだった。
彼は一日俺に付き添ってくれ、校内で迷うことがないように助けてくれた。
「ルシフェル、購買はどこだ」
「あー、そこの道を右……」
「わかった」
俺が先に向かい彼を待たせる事がないよう駆け出そうとすると、彼が俺の腕を掴んで笑い転げる。
「……にいっちゃだめだっていってんの。ははっ! せっかちだな。話を最後まで聞けよ」
「すまない……」
「時間はたっぷりあるんだぜ。あんまり急ぐなよ」
彼は笑いながら、俺の隣に戻ってきた。その間もすれ違う生徒に声を掛けられている。
購買では彼の言うことを聞き、素直に焼きそばパンを食べることにした。
「うまいだろ」
と彼が屈託無く笑う。
「あぁ」
と肯定を返すと、彼はとても得意げだった。
「あぁ、お前はアーチェリー部に行くのだっけ」
下校の時間になって、彼は急に思い出したように言った。
「あぁ、すまないが場所を教えてくれると助かる」
「いいぜ。お前が弓やってるとこ、ちょっとみたいな」
「見てゆくと良い」
俺はルシフェルに期待されているようで少し嬉しかった。ルシフェルは俺を半歩先導しながら、頭の後ろで手を組んだ。
アーチェリー場は十分な広さが取られていて、ここでは十分に練習できそうだった。ところが、どうしたことか部員が一人もいない。けれども俺はそんなことを気にする方では無いので、準備を進める。
ルシフェルはどこからか椅子を用意してきてそれに座り、俺の様子を見ていた。ようやく弓を構えるところまで準備をし終え、深呼吸をする。集中。弓を引いて、的を狙う。弦の張りつめる音で神経が高ぶってくるのを感じる。
ひゅっと弦が空気を切り裂いて、震える。矢は向こうの的まで飛んでいって、真ん中を射貫く。ぱちぱちぱち、と渇いた音がして、俺はルシフェルの方を見る。
「お前すごいんだな」
「ルシフェルにそういってもらえるとは、光栄だな」
「そうか?……お、と」
彼が自分の身体をぱんぱんと触って、尻ポケットから携帯電話を探し当てると、ちらりとそれをみて立ち上がった。
「やべっ! 予定あったの忘れてた。あー、と」
彼はもう一度身体をぱんぱんと叩いて紙とペンを探し出し、さらさらとなにかメモを取って俺に渡してきた。
「俺の電話番号。なんかあったらかけてこいよ」
「あぁ、ありがとう」
「それから」
「ん?」
「今日は夜雨が降るから早めに切り上げて帰った方が良い」
彼は笑って、片手をひらひら振りながら去っていった。
俺はその日暗くなるまで練習した。確かにその日は暗くなってすぐ、雨が降り出した。そしてアーチェリー部の人間は一人も来なかった。
作品名:えんじぇる☆ぱにっくす 作家名:ペチュ