おいでませ、××××
その日は休校日だったもののバイトに勤しんでいたリトアニアは自転車に乗り、家路に着いていたところだった。 1年ほど前から小さな喫茶店に勤めており
店長にも厚く信頼されている彼は、学業との両立を果たし充実した日々を送っている。
先刻 電話越しに相方の示した、自宅から程近い所に在る公園に到着すると自転車から下り、それを押しながらきょろきょろと公園内を見渡す。
公園とはいっても敷地内に溜め池やグラウンドを擁する広さであり、目印になるようなものを聞いておくべきだったと彼は頭を掻いた。
そもそも“野良のポニー”とは一体、どういうことなのだろう。
まさか野生のポニーがそこかしこから飛び出してくる訳でもあるまいし、この近辺に牧場のような施設は存在しない。
・・・・・・しかしあのポーランドが言い出すことなので、あまり常識に則って考えても仕方ないことのような気もする。
自転車を止め、再び携帯を取り出し連絡を取ろうと試みる― と、その時。 携帯を操作する視界の端に不意に映り込んだのは、見覚えのある人影。
グラウンドへと続く並木道からひょっこりと現れたそれは、背を向ける状態で(つまりは後ろ向きで)こちらに近づいてくる。ここからでは見えないが、どうやら後方に連れの存在があるようだ。
自分にはまだ気がついていないようなので、声を上げ手を振ってみる。
「ポー! こっちこっち! 」
「おっ リトー、もーいっつもマジ遅すぎなんだしー」
不平を言いつつも機嫌の良いポーランドはこちらに駆け寄ってきて、笑みを浮かべそう返す。
最近随分と冷え込んできた為か分厚いコートにマフラー、手袋をしっかりと装着した装いの相方は、もこもこしてどことなく可愛いらしく感じる。
「ねぇポー、野良のポニーって、そんなの何処にい・・・・・・?! 」
「お前ほんとに賢いなぁ、もー俺が飼い主だって覚えたのな」
並木道からのっそりと姿を現したのは
明らかにポニーとは程遠い姿形をした、何かしらの生き物。
蹄の立てる軽やかな音を響かせながら、それはゆっくりとこちらに向かってくる―
作品名:おいでませ、×××× 作家名:イヒ