踊る、風紀委員戦線
「待てスペイン! そのような だらしない身なりは、我輩が許さんのである! 」
「うっわー見つかってもうた、大目に見たって~な」
休み時間を利用し学園を巡回していたスイスがターゲットを発見したらしく戦闘態勢に入る。こういった光景が見られるのは日常茶飯事だ。
愛用の銃を振りかざし校内を駆け回り、風紀を乱す生徒を見つけ次第 成敗・・・・・・いや、注意を呼びかけ、清く正しい学園生活を説く。それが彼の責務であった。
これは今朝の出来事だが、後の休み時間ごとに対象を発見していたのでは流石に身が持たないというもの。
只でさえ広大な面積を誇る学園で、一切の乱れを無くすべく孤軍奮闘するというのは現実的に無理がある。
スイスの統率するこの風紀委員会、当初はそれなりの人数を抱えこういった活動を日々遂行していた。しかし
委員長の指揮の下 行われる『訓練』があまりにも厳しく過酷なものだったので(彼にしてみればウォーミングアップ程度のものなのだが)、委員は続々と辞していった。
軟弱者は足手まといになるだけだ と去っていく彼らを一切引きとめなかったスイスだが、ひとりになってから既に半年近くが経過しており疲れの蓄積を感じ始めていた・・・・・・
だからといって、彼は音を上げるつもりなど毛頭無い。
風紀の乱れは許されることではなく、根絶すべきものだ。
そう、規則は守られる為に有る。
堂々巡りになる考えを持て余しながら、黙々と彼は作業を進めていた。飼い葉を全て運び終えると 今度は台車に乗せてきた飼料袋の封を切り、餌箱へ注ぎいれようと屈む― と その時。
スイスの視線と、仔ヤギ達のそれが かち合った。
「! お前たち・・・・・・なかなかに、良い目をしておるではないか」
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そして、その翌日の明け方。
空は晴れ渡り、温かな光が町全体を包み込むように照らしだす。
鳥たちは歌いさえずり、新しい一日の始まりを喜んでいるように見えた。そんな、
優しい朝のこと。
・・・・・・学園一帯はその風情とは打って変わって、何やら
物々しい雰囲気に支配されていた。
校内中に植樹された木々はざわざわと荒れ、小鳥たちも怯えたかのように黙り込んでいる。
本日は至って快晴 との天気予報はこの学園内においては無効らしく、上空には鉛色の雲が垂れ込めまるで嵐の前のような緊張感が漂っていた― その根源は
グラウンドの中央に仁王立ちした、風紀委員長のスイス。
澄んだ湖水をたたえた瞳は険しい色を帯び、校門へと続く界隈を鋭く睨んでいる。
パトロール中の正装である赤地に白十字を刻んだ腕章を嵌め、常に携行を欠かさない愛用のライフルを背負う。
いつも傍にいる筈の妹の姿はない(今回は危険だから と、教室に待機させているものらしかった)が、その代行というべきなのか
周囲には幾数名の『委員』が、彼をサポートするかのように立ち並んでいる・・・・・・その十の目は使命感に燃え、今まさに走り出さんというばかりだ。
「―さぁ お前たち。昨日の訓練の成果を、とくと発揮するがよい」