踊る、風紀委員戦線
一方の何も知らない生徒たちは、今朝もいつも通りに登校してくる。
風紀委員会にまだそれなりの人手があった頃は抜き打ちの服装チェックがまめに行われ、随分窮屈な思いをしていたのだが
スイス個人の活動のみとなってからはその回数は激減し、今学期に入ってからは一度も実施されていない。
まだまだ若く、登校時の身なりもそれなりに楽しみたい生徒たちは制服を着崩したり我流のアレンジを施すなど、この機会を逃すまいと最近は存分に楽しんでいた。
巡回する風紀委員長に見つかってしまえば面倒なものの、ここは広大な学園内。そうそう見つかることはないし、いざ危なくなれば隠れる場所も豊富なのだ。
―今となっては校内における『縛り』は、スイスとクラスを同じくする者が嘆く程度のものと成り下がりつつあった。だが
その楽園のような時間も今日を以って終焉を迎えることを、生徒たちはまだ知る由もない。
「・・・・・・あら? 」
今朝早くに兄と登校してきたリヒテンシュタインは、スイスの言った通りに教室で大人しく本を読んでいた。
何度も何度も読み返したこの『民間防衛』も随分擦り切れてきたように思う。兄から貰った大切な本なので、お手製のブックカバーを付けて大事に扱っているものの
そろそろ危うい状態かもしれない。
見かねたスイスが新しいものを買ってやるとこの間言ってくれたのだが、丁寧に断った。
この本のくたびれた分、兄と過ごした温かな日々が在る・・・・・・そう思うと軽々しく新調できず、尚更大切にしたくなるリヒテンシュタインなのだ。
もうほとんど暗記したといってもいい内容に目を通していると、校庭の方から聞き慣れた銃声が響いてきた。
本にしおりを挟み机に置くと、リヒテンシュタインは窓辺へと駆け寄る― その眼下に広がっていた光景とは。