例えば君が遠すぎて
シズちゃんが生活していた、住む人のいなくなったアパートに俺は家賃を払い続けている。家族には無理を言って、アパートにある物は全部そのままにしてもらっている。シズちゃんがいつ戻ってきてもいいように。
そこには俺からシズちゃんに宛てた手紙を置いてある。帰ってきたシズちゃんが迷わずここに来られるように。
俺は訃報を信じていない。
死体だってこの目で見ていない。
帰ってくる。
信じ続けることは強いことだろうか?
「シズちゃん」
こんなことになるなら。こんなことになるなら?
───すぐに探せば良かった?
───あんなこと言わなければ良かった?
───告白なんてしなければ良かった?
───出会わなければ良かった?
どれだけ仮定を繰り返しても
どれだけ別の関係を想像しても
何処までも君は遠い
今でも愛してると囁ける自分はどうしようもなく弱い
「シズちゃん」
どこまでも君は遠い場所で時間を止めたまま
「俺、21歳のまま、待ってるから」
そして自分だけは歩き続けている