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孤独の先に

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雨が降っていた。薄暗い景色のはずだった。
今の目には赤い世界。雨の音が聞こえない。
なにがあったのか脳が理解するのを拒否している。
目の前が真っ暗になった。
気がつけば一人になっていた。


高校一年生で顔立ちは整っているがあまり印象が強くはない少年、竹川 限輝は毎日何の楽しみもない日常をただ繰り返している。
そんな彼も昔は、性格は明るくていつでも笑っているのが印象的で運動が得意な小学校六年だった。あることがきっかけで変わってしまった。
今では同一人物とは思えないほど変わってしまい、誰とも口を利かず笑顔も見せなくなってしまった。
 そんな状態で中学生活を過ごし今では高校生。
中学生活から変わったことといえば肩書きが高校生になったぐらいだろう。
新しい環境なっても変わらない、人と関わろうとしない、いつもひとりでただ学校に通っている。
趣味は特にないがボランティア活動はよく行っている。何かの償いのようにそれ以外には課題、委員会の仕事などしかしていない。
この彼の五年間の生活を例えるなら時計。規則正しく時間を刻むそれ以外のことはなにもしない。


九月の始め夏休みが終わった頃。自転車通学の限輝は下校中だった。今日から通学経路にある道が補修工事で通れないためいつもと違う道を通っている。
新しい経路の途中には公園があり、もう寂れていて誰も遊んでいない公園。
だけどそこにはなぜか一人の少女がベンチに座っている。
 最初は気にもとめず通り過ぎた。
それから何度も見かけた。晴れの日には必ず居る。なにをするでもなく座っているだけ。
限輝が少女を初めて見かけた日から一カ月が経った。工事は終わったが、通常の通学経路に戻さなかった。
――あの子が気になる。
限輝はそう感じているためだろう。
その理由はわかっていないようだ。
――話しかけてみようか?
それは限輝が久しぶりに他人に関わろうとして決心しとのだった。
限輝は下校途中に公園前に自転車を止めて少女の下へ向かった。
「ねえ、ここでなにをしてるの?」
ぎこちなく話しかけた。いきなり話しかけて下手をしたら変人扱いだろう。だが自分の意思で話しかける行為自体が久しぶりの限輝には、うまい言い回しや話しかけ方を期待しても無駄だろう。
だけど彼女は答えてくれた。
「……日向ぼっこ」
顔を上げた少女の歳は限輝とそれほど変わらない。髪は肩にかかるぐらいの長さ、青い縁のメガネを掛けている。顔立ちは幼さが残っていて人に聞けばほとんどの人がかわいいと答えるだろう。
しかし質問の答えは無表情のままで、声には感情がこもっていなかった。それは他人がどうでもいいと感じさせる。
その言葉を聞いた限輝はよく考えれば夕方に日向ぼっこなどおかしいことに気がつくはずだが、質問の答えなど気にしていなかった。なぜなら少女が気になった理由を理解したからだろう。
――ああ、そうかこの子も同じなのかもしれない。
他人と関わることを拒否しているような態度を自分と重ねていた。
そこでまた話しかけた。今度はぎこちなさが消えていた。
「僕の名前は井上限輝……君の名前は?」
「……籠塚 美幸」
少女はさっきと同じ態度で答えた。
それから限輝は毎日少しずつ美幸に話をしかけた。
最初は今日の天気とか気温とかくだらないことだった。何を話せばいいかわからないため話題は限られる、なにもない時は黙って空を見上げた。反応がなかったり、簡単な相槌だけだったりしたが、毎日少しでも話しかけていた。
たぶん籠塚さんが変われば僕も変われるかもしれないなどと期待を持っていたのだろう。
そのうち籠塚さんも話に答えてくれるようになっていた。
 今日も話しかける。
「こんにちは籠塚さん」
「こんにちは」
 笑顔こそ見せないが自然に話していた。
「今日はいい天気だね」
「そうだね」
――ここまでのやりとりは何回目だろう。
 そう思いながら、苦笑いを浮かべ今日の話しをしだした。
「最近は数学が難しいんだよ、このままだとついていけなくなっちゃうかも」
「……私が教えてあげようか?」
苦手科目は数学、得意科目は歴史と以前に話してあり、そのときは「そう」としか返ってこなかった。今回も同じ返しだろうと予想していた限輝は、その言葉を聞き自分の耳を疑い驚きのあまり少しの時間行動不能に陥っていた。なにせこれが美幸から行動をしようと動いたところ初めて見たためだろう。
「……やっぱりいい」
「え? ――えっと……その……よかったら僕に数学を教えてもらえませんか?」
ちょっと驚いているところを美幸は、自分に教えてもらうことを迷っていると思ったのだろう。前に話した中に美幸は限輝に今は、学校に通ってないと告げていたのが原因だろう。
ちょっと慌てたが逆に自分から頼んでみることにした。
「……わかった、教えてあげる」
「ホント? ありがとう!」
お礼を言うと無表情の籠塚さんの表情がいつもと違うように見えた。それを見て前より顔の表情がでるようになったと感じた。
話しかける度に少しだけ変わっていくような気がするけど、籠塚さんよりも僕は変わったかもしれない。
――昔の性格が戻りかけているのかな……。
それからも話しかけた。特に日常に変化がないから話題は限られているけれど、もちろんそれから毎日のように数学を教わっている。
今日も一冊のノートで数学を教わっている。
「ここは式を変形させてからこの公式を使うの」
「まずは変形させて、それでこの公式を使って……できた。どうあってる?」
「……正解だよ」
「本当?籠塚さんは教えるのうまいよね」
「そんなことは……ただ私が教えてもらったことをそのまま利用しているだけだし」
口調は慌てていて声が小さくなってく。
「そんなこと関係ないよ、僕に教えてくれているのは籠塚さんだし」
僕の表情は久しぶりに自然と笑みが出た気がした。
美幸は黙りこんで顔を伏せている。
「今日はもう帰るね」
「あ、もう時間か……じゃあまた明日ね」
限輝は手を振りながら言うと、去っていく美幸のボソリと小さい呟きを聞いた。
「また明日」
限輝は驚きよりも嬉しさの方が強かったようだ。
――そういえばもうすぐクリスマスか……その日も公園に居るのかな?
雨の日は居ないが土日はいつもの時間に居る。限輝が先に来ることがあることので、時間は四時から五時までの一時間だけだろう。
その理由はわからないし聞けない。そこまで深くは踏み込めない。僕にも言えないことはある。それがわかっているからお互い詮索しないのだろう。
そしてクリスマスイヴ。
――さすがに居ないかな。
そう思いつつ期待してしまっているプレゼントを持ち、お金は使うことがなかったからそれなりに貯まっている、クリスマスプレゼントとしてコートと手袋を選んだ。
籠塚さんはいつも公園にはちゃんと暖かい服装をしているけど、僕はこれといって籠塚さんの好みとかを知らない。なぜなら最初は話に乗ってくれなかったし、僕も話すことがあまり思いつかなくて自分のことを話題にあげていた。
そのせいでタイミングを逃してしまい、知らないことが多い……だからコートにした。これなら迷惑にならないだろう……サイズは大丈夫のはず。
作品名:孤独の先に 作家名:ざくざく