孤独の先に
公園に行ってみるといつものベンチに座っている美幸が居た。
――僕も人のこと言えないけどクリスマスでもやることがないのかな……
そんな失礼なことを考えている限輝が苦笑いしながら話しかけた。
「やっぱり居たんだ」
「やることないし、来ると思ったから……」
「そっか……これ、クリスマスプレゼント。気にいってくれるといいんだけど」
普通プレゼントは最後に渡すものだろうが、緊張しているため目的を早めに達成しようとする。
「……ありがとう、これは私から……頑張ってね」
「……ありがと」
両方ともこういった慣れてないのか少しぎこちない動きでプレゼント交換をした。美幸は微笑を浮かべ、限輝は笑顔だった。
プレゼント交換は無事終了したけど「頑張って」とはなんのことだろ? 疑問をもったけどやっぱり嬉しかった。そんなに大きな箱ではないけどちょっと重い、中に何が入っているのだろう気になったため開けていいか聞いた。
「開けてもいいかな?」
「いいよ」
ガサガサ包みを簡単に開けてから箱を開けてみると、本が五冊入っていた。数学の問題集と参考書だった。
「数学これからもっと難しくなるだろうし、頑張ってね」
「……うん、がんばるよ」
――特に欲しいものがなかったけど数学……まあ籠塚さんが僕のためを思って贈ってくれたものだ。大丈夫プレゼントは中身より気持ちだ。
「そっちも開けてもいいんだよ」
もしかして僕のプレゼントにはなんの興味もないのか少し不安になりながら聞いた。
「楽しみは後にとっとくの、帰ってから開けるよ」
頬を染めて少し恥ずかしそうに言った。
限輝は安堵しほっと胸を撫で下ろした。
「今日はもう帰るから……ごめんね、またね」
少し悲しそうな顔をして美幸は足早に去っていってしまった。
「え? ――あ、またね」
少し茫然としながら言葉を返した。
――さっき「特にやることがない」と言っていたけど、どうしたのだろうか?……
――久しぶりに家族と話してみようかな……
ふとそんなことを思っていた。
高校に入学するときに話して以来会話らしい会話をしていない。美幸と出会い話していくうちに限輝は昔に戻りつつあるようだ。
次の日にも居た美幸は特に変わった様子がなかった。
――プレゼントはどうだったのかな。
気になるがちょっと怖いから聞けなかった。
そしてクリスマスから三日後。
「いつもベンチに座っているか立っているかだし、たまには歩かない?」
なんとなくしてみた。
「そうだね、歩こうか」
美幸はなんだか何かを思い出したような顔をして答える。
美幸が少し先を歩いている、足取りからするに川原を目指しているのだろう。公園から歩いて二十分くらいでつく川原だ。
とくに話すことが思いつかないので並んで歩くだけだった。
――このまま進んだら……
限輝の足取りが急に重くなり、少しして立ち止っていた。その二
十メートル先の電柱に干からびた小さな花束が置いてあった。
先に行ってしまった美幸はどうしたのだろうかと思い戻ってくる。
ふと顔を上げた限輝は、戻ってくる途中の美幸を見た。美幸の前にあるわき道から車がでてきた。もちろん両方ともスピードはでていないしはぶつかったりしない。
いやな汗がどっと出てきたような気がした。顔が青ざめ気分が悪くなることを自分でも理解した。だが美幸に知られれば迷惑をかける。
――なにか言い訳を……
「顔が真っ青だよ、大丈夫なの?」
いつの間にか近くに来た美幸が心配そうに話しかける。
「え? ああ――ちょっと気分が悪くなっただけだよ。大丈夫すぐ直るって」
「大丈夫じゃないよ、公園に戻ろうよ。散歩はいつでも行けるし」
美幸は限輝の顔色を見て取り乱している。
――無理をしても逆に迷惑をかけそうだ……
ここは美幸の意見に甘えておこう。
「……わかった。戻ろうか、迷惑掛けてごめん」
二人は公園に戻りベンチに腰を下ろした。
「今日はもう帰ろうよ」
美幸が心配そうに言った。
「……大丈夫……それより……聞いてほしいことが、あるんだ」
先ほどより顔は青くないがなにか決心したような顔でいった。
「実は……」
「いいよ、言いたくないことは無理に言わなくても」
言おうとすると言葉を遮られた。
「……いや、知ってもらいたいんだ」
美幸の言葉に甘えそうになったのを堪え語りだした。
それは限輝が小学6年生の頃の話。
その頃はまだ明るく笑っていることが多く、運動が得意で学年では一番だった。
ある日に限輝が仲の良い友達3人との帰りに、近くの川原まで競争しようと提案があった。
「え~限輝が勝つに決まってるじゃん!」
「そのかわり限輝は10数えたらスタートな」
「それなら俺も勝てるかもな、やろう」
「え! 十か~……まあそれぐらいのハンデがないと勝負にならないよね~」
友達の意見に、笑いながら限輝は答えた。
「まったくいつものほほんと笑ってるくせに、運動はスゲーんだからな~」
「ホントホント。だけど今日は勝たせてもらうぜ!」
「よーしここから川原まで、よーいスタート」
掛け声とともに3人が走り出した。
「一、二、三、四……十と」
十数えた限輝は走り出した。
四人全員が走り先頭は二人が並び一人が少し遅れてその二十mほど後ろに限輝が走っていると、先頭の二人の近くのわき道から車が出てきた。飲酒運転していた運転手は居眠り運転だった。そのせいで速度が出ている。そして車に衝突した三人、先頭に居た二人は車と壁に挟まれた。一人は跳ね飛ばされて限輝の目の前に飛んできた。その拍子で赤いものが顔に付着した。
「――え? …………な…………」
なにが起きたのかわからなかった。ほんの一瞬のできごとだ。言葉を出そうにも口からは空気が抜けたようなものしか出てこない。
そして周りに人が何人もいた。救急車を誰かが呼んだのだろうサイレンの音が聞こえてきた。
そんな中、少し状況がわかった。友達は死んだのだと。
否定したくても脳は目に見えているものを現実だと理解している。
病院に運ばれ診察を受けていた僕は…………
――僕は死ななくてよかった。
なんてことが頭をよぎった。ほんの少しでもそんなことを考えた自分を自分で殺したくなった。
挟まれた二人は即死だった。飛ばされた一人は意識不明の重体。
そのことを知って罪悪感で潰されそうな心は家族や医者、警察の言葉よりも心を軽くした。
――治れば僕を責めてくれる。あんなことを思って、事故の原因を作った僕を……
限輝は罰を求めていたのだ。家族も死んだ友達の家族も警察もみんな「君のせいじゃないよ」としか言わない。逆にそれは限輝の罪悪感を強めていたのだ。
だが一カ月後に最後の友達は亡くなった。
自殺もしようとしたが死を目のあたりにしてしまった僕は怖くてできなかった。
そのかわり言い訳をみつけた。死んだ友達の代わりに幸せになろうとは思はないけど。
――償いをしよう。
その考えでまずはもう誰とも仲良くしない、誰かの役に立てる行動をしようと思った。
「これが僕の過去、そう忘れかけていたんだ……」
――ああ、そうかまた思ってしまった。自分だけはと……
そう過去の出来事と今の現状を比べていた。