glamorous striker
glamorous striker
なぜ、世良なのだ。
暑気払いとポスター撮影の打ち上げを兼ねた飲み会の最中のことだった。
ほぼ同時に同じテーブルについていた全員にそう問われた堺は何を馬鹿げたことを言い出すのだと憮然となった。
しかし、堺の顔色などお構いもせずテーブルに居合わせた面々から「どうしてだ」「なぜだと」と重ねて訊かれた。
言う必要など一つもない、と思うと自然と眉根が酔ってしまった。
居合わせた顔を見渡すと視線が自分に集中していて居心地が悪くなる。
「いい加減、白状しましょうよ、堺さん」と、石神から諭すように言われて堺は思わず「はあ?」と、声を上げた。
言い返そうとしたが、その場にいる全員がアルコールが入り酔っているはずなのに真剣な目で自分を見つめてるので言葉を失う。
自分を落ち着かせようと堺は手にしたグラスの中身を一口含んだ。薄い水割りをごくりと飲むと同時に丹波が身を乗り出した。
「そうだよ。前から聞こうと思ってたんだよ」
丹波の隣で黙って村越がうなずくのが見える。
「そうっスよ。マジで何で世良さん何スか?」
その世良よりさらに若い赤崎がむっとした顔をしながら口を開くと、石神が膝を叩いて大笑いした。
「赤崎にまで言われるって、堺さんはどんだけ魔性の男なんだよ!」
「魔性の男……」
それを聞いた杉江が顎に手をやりぽつりとつぶやく。
「ちょっと待て誰が何だって?」
聞き捨てならない、と堺は思って反論を試みようとしたが「まぁまぁ」と緑川に肩を叩かれて押し黙る。
「とりあえず話を聞こうか、堺」
「ええぇ?」
大まじめな顔で緑川に言われると流石に堺は引くに引けないものを感じ取った。
助けを求めるように見渡すと少し離れたところで気配を察した黒田が夏木の腕を引っ張って自分達のいるテーブルから離れて行くのが見える。
あの二人がいれば話題がそれたのにはずだ。堺はそう思うと恨めしげにその姿を目で追ってしまった。
「堺さん。そろそろ口を割った方が良いって」
石神が面白がる口調で身を乗り出す。
「大丈夫!ここだけの話にするから」
そう言って笑顔を向ける。堺は胡散臭い詐欺師の笑顔だと思った。
「絶対にここだけの話にならないだろ」
反論された石神は大まじめな顔を作り堺の手を固く握りしめた。
「男の約束です」
「何が約束だ。お前のことなんか信用できねぇよ!」
堺は邪険に手を振り払う。石神はわざとらしく顔をしかめて振り払われた手を痛そうにさすった。
「絶対に口を割らないからな!」
腕を組んで毅然とした表情でテーブルを囲う面々の顔を睨みつける。
アルコールの入ったそれぞれの顔は堺の抵抗を面白そうに見る者もいれば、成り行きをはらはらとして見守る者もいる。
だが、敢えてこの場を助けてくれそうな者はいそうもなかった。
「じゃあ。俺にだけ言え」
再び丹波は身を乗り出して行って来たので即座に「だから。言わねぇよ!」と堺は切り返す。
「もったいぶるなよ」
拒絶の姿勢を取り続ける堺に向けて丹波は唇を尖らせてブーイングをするように親指を下げる。
「別に話すことは何もないし」
堺はむっとしたままの表情でテーブルを囲んでいる面々を睨み付け続ける。すると無言でテーブルを囲む面々も黙って見つめ返す。
何の反応もなく自分を見つめ返す視線を受けると居心地が悪くなった。
ふと、別のテーブルに目を移すと世良が何事か楽しそうに清川や椿と話し込んでいる。
チームメイトたちからこれほど好奇の視線を受けてしまうのだったら、最初から人目を気にせずに世良と仲良く座っていた方が賢明だったかの知れない。堺は軽く後悔を覚えた。
「あれ。佐野は聞く権利あるんじゃないの?」
突然、堀田は黙って成り行きを見ていた佐野に向って話題を振る。急に話を振られた佐野はグラスを取り落としそうになる。
「ええっ?」
佐野は一瞬、腰を浮かせかけたが堀田に肩を押されて仕方なく座り直した。堺に向けられていた好奇の視線が今度は佐野に集中する。
視線を浴びた佐野はこっそりと心の中で呼び出されたのはまさかこのためか、と疑い始めた。
だが、ポスター撮影に呼ばれていない他のメンバーも呼ばれているので偶然だと信じたい。
突然の成り行きに何故、自分はここへ来ているだろう。理由は何なのだろうか、と頭を抱えたくなる。
「そうだな。佐野は世良から一番話を聞いてるだろ」
「まぁ。話は聞いてますけど……」
緑川から話しを振られた佐野は、はぐらかそうと視線を巡らせる。
すると当事者の堺以外から「佐野、お前だけだ」と、言う期待のこもった顔を向けられていた。
期待を向けられても困る。佐野は困惑を隠せずにただ沈黙する。
確かに世良から話を聞くことは聞いている。
しかし、世良が自分に向けて話したことは基本的に「堺が好きだ。好きで好きで仕方がない」と言う内容がほとんだ。いや、それが全てだ。
二人の間でどんな会話があり、どんな成り行きで今の状況になったのか具体的な話は一切聞いていない。
世良から馴れ初めを聞く必要もないし聞かされても困るだけだ。佐野は世良にそう言った覚えはないし世良も全てを言う人間ではない。秘め事はそっと当人たちの心の中に留めておくものだ。
ただ、ある日を境に二人は恋人同士になったのだ、と世良からの気配で察した。
訊ねる気にならなかったが、本人からはただ嬉しかったです、と正直な一言だけを聞いている。
佐野は年相応の若者が見せる照れ笑いを浮かべた世良に向けて良かったな、と言って複雑な心境ながらも一緒に笑った。
世良のチームメイトの一人と言うより、年齢の少し離れた弟のように思って可愛がっている。
彼がどのような相手に恋焦がれても恋愛をしても、それは彼の人生である。面白がらないし引きとめもしない。
突然、世良が堺への思慕の念を口にし始めた時から、相手が誰であれ恋愛成就を一緒に喜ぶつもりでいた。
どんなきっかけがあったのか知る由もないが、年上の同性に本気の恋をして、純粋に好意を寄せている世良を応援した。
それが叶ってしまったことについては少し考えるところがある。
しかし、本人が良いと言うのならばそれで良いと思う。思うようにしている。喜ぶ世良に向けて「おめでとう」と言った。
倫理や価値観など、世良のように恐ろしいほどまっすぐ一直線な男には関係のない話なのだ。世良を見て佐野は感じ取った。
相手の堺もそうなのだろう。おそらく、堺の中にも葛藤があったはずだ。
世良にあそこまで惚れ抜かれ慕われてしまえば常識など全く関係ない。意味がなくなるのを感じる。
これまでも価値観を覆され、悩みも葛藤も雲散霧消させてしまう情熱に絆されてしまうのも仕方がないと思う。
世良の堺への片思いや純愛を知っている佐野は酒の席とは言え口に出せない。周囲の好奇心を満たすようなことを言うのは気が引けた。
「えっ?もしかして。世良からちょっと言えない話を聞いちゃってたりとか?」
考え込むように無言を貫くの佐野に向けて石神がいたずらっぽく声をかける。
なぜ、世良なのだ。
暑気払いとポスター撮影の打ち上げを兼ねた飲み会の最中のことだった。
ほぼ同時に同じテーブルについていた全員にそう問われた堺は何を馬鹿げたことを言い出すのだと憮然となった。
しかし、堺の顔色などお構いもせずテーブルに居合わせた面々から「どうしてだ」「なぜだと」と重ねて訊かれた。
言う必要など一つもない、と思うと自然と眉根が酔ってしまった。
居合わせた顔を見渡すと視線が自分に集中していて居心地が悪くなる。
「いい加減、白状しましょうよ、堺さん」と、石神から諭すように言われて堺は思わず「はあ?」と、声を上げた。
言い返そうとしたが、その場にいる全員がアルコールが入り酔っているはずなのに真剣な目で自分を見つめてるので言葉を失う。
自分を落ち着かせようと堺は手にしたグラスの中身を一口含んだ。薄い水割りをごくりと飲むと同時に丹波が身を乗り出した。
「そうだよ。前から聞こうと思ってたんだよ」
丹波の隣で黙って村越がうなずくのが見える。
「そうっスよ。マジで何で世良さん何スか?」
その世良よりさらに若い赤崎がむっとした顔をしながら口を開くと、石神が膝を叩いて大笑いした。
「赤崎にまで言われるって、堺さんはどんだけ魔性の男なんだよ!」
「魔性の男……」
それを聞いた杉江が顎に手をやりぽつりとつぶやく。
「ちょっと待て誰が何だって?」
聞き捨てならない、と堺は思って反論を試みようとしたが「まぁまぁ」と緑川に肩を叩かれて押し黙る。
「とりあえず話を聞こうか、堺」
「ええぇ?」
大まじめな顔で緑川に言われると流石に堺は引くに引けないものを感じ取った。
助けを求めるように見渡すと少し離れたところで気配を察した黒田が夏木の腕を引っ張って自分達のいるテーブルから離れて行くのが見える。
あの二人がいれば話題がそれたのにはずだ。堺はそう思うと恨めしげにその姿を目で追ってしまった。
「堺さん。そろそろ口を割った方が良いって」
石神が面白がる口調で身を乗り出す。
「大丈夫!ここだけの話にするから」
そう言って笑顔を向ける。堺は胡散臭い詐欺師の笑顔だと思った。
「絶対にここだけの話にならないだろ」
反論された石神は大まじめな顔を作り堺の手を固く握りしめた。
「男の約束です」
「何が約束だ。お前のことなんか信用できねぇよ!」
堺は邪険に手を振り払う。石神はわざとらしく顔をしかめて振り払われた手を痛そうにさすった。
「絶対に口を割らないからな!」
腕を組んで毅然とした表情でテーブルを囲う面々の顔を睨みつける。
アルコールの入ったそれぞれの顔は堺の抵抗を面白そうに見る者もいれば、成り行きをはらはらとして見守る者もいる。
だが、敢えてこの場を助けてくれそうな者はいそうもなかった。
「じゃあ。俺にだけ言え」
再び丹波は身を乗り出して行って来たので即座に「だから。言わねぇよ!」と堺は切り返す。
「もったいぶるなよ」
拒絶の姿勢を取り続ける堺に向けて丹波は唇を尖らせてブーイングをするように親指を下げる。
「別に話すことは何もないし」
堺はむっとしたままの表情でテーブルを囲んでいる面々を睨み付け続ける。すると無言でテーブルを囲む面々も黙って見つめ返す。
何の反応もなく自分を見つめ返す視線を受けると居心地が悪くなった。
ふと、別のテーブルに目を移すと世良が何事か楽しそうに清川や椿と話し込んでいる。
チームメイトたちからこれほど好奇の視線を受けてしまうのだったら、最初から人目を気にせずに世良と仲良く座っていた方が賢明だったかの知れない。堺は軽く後悔を覚えた。
「あれ。佐野は聞く権利あるんじゃないの?」
突然、堀田は黙って成り行きを見ていた佐野に向って話題を振る。急に話を振られた佐野はグラスを取り落としそうになる。
「ええっ?」
佐野は一瞬、腰を浮かせかけたが堀田に肩を押されて仕方なく座り直した。堺に向けられていた好奇の視線が今度は佐野に集中する。
視線を浴びた佐野はこっそりと心の中で呼び出されたのはまさかこのためか、と疑い始めた。
だが、ポスター撮影に呼ばれていない他のメンバーも呼ばれているので偶然だと信じたい。
突然の成り行きに何故、自分はここへ来ているだろう。理由は何なのだろうか、と頭を抱えたくなる。
「そうだな。佐野は世良から一番話を聞いてるだろ」
「まぁ。話は聞いてますけど……」
緑川から話しを振られた佐野は、はぐらかそうと視線を巡らせる。
すると当事者の堺以外から「佐野、お前だけだ」と、言う期待のこもった顔を向けられていた。
期待を向けられても困る。佐野は困惑を隠せずにただ沈黙する。
確かに世良から話を聞くことは聞いている。
しかし、世良が自分に向けて話したことは基本的に「堺が好きだ。好きで好きで仕方がない」と言う内容がほとんだ。いや、それが全てだ。
二人の間でどんな会話があり、どんな成り行きで今の状況になったのか具体的な話は一切聞いていない。
世良から馴れ初めを聞く必要もないし聞かされても困るだけだ。佐野は世良にそう言った覚えはないし世良も全てを言う人間ではない。秘め事はそっと当人たちの心の中に留めておくものだ。
ただ、ある日を境に二人は恋人同士になったのだ、と世良からの気配で察した。
訊ねる気にならなかったが、本人からはただ嬉しかったです、と正直な一言だけを聞いている。
佐野は年相応の若者が見せる照れ笑いを浮かべた世良に向けて良かったな、と言って複雑な心境ながらも一緒に笑った。
世良のチームメイトの一人と言うより、年齢の少し離れた弟のように思って可愛がっている。
彼がどのような相手に恋焦がれても恋愛をしても、それは彼の人生である。面白がらないし引きとめもしない。
突然、世良が堺への思慕の念を口にし始めた時から、相手が誰であれ恋愛成就を一緒に喜ぶつもりでいた。
どんなきっかけがあったのか知る由もないが、年上の同性に本気の恋をして、純粋に好意を寄せている世良を応援した。
それが叶ってしまったことについては少し考えるところがある。
しかし、本人が良いと言うのならばそれで良いと思う。思うようにしている。喜ぶ世良に向けて「おめでとう」と言った。
倫理や価値観など、世良のように恐ろしいほどまっすぐ一直線な男には関係のない話なのだ。世良を見て佐野は感じ取った。
相手の堺もそうなのだろう。おそらく、堺の中にも葛藤があったはずだ。
世良にあそこまで惚れ抜かれ慕われてしまえば常識など全く関係ない。意味がなくなるのを感じる。
これまでも価値観を覆され、悩みも葛藤も雲散霧消させてしまう情熱に絆されてしまうのも仕方がないと思う。
世良の堺への片思いや純愛を知っている佐野は酒の席とは言え口に出せない。周囲の好奇心を満たすようなことを言うのは気が引けた。
「えっ?もしかして。世良からちょっと言えない話を聞いちゃってたりとか?」
考え込むように無言を貫くの佐野に向けて石神がいたずらっぽく声をかける。
作品名:glamorous striker 作家名:すずき さや