臨帝超短文寄集
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「いやあ、よかった。追いかけてきてくれなかったら、どうしようかと思ったよ」
店を出たとたん、かけられた声に思考が停止する。
「結構俺もドキドキしてたんだよ、もしかしたら来ないかもなって。だって帝人君、二年もの間、本当に何のリアクションもくれないしさ。二年だよ、二年! 意地っ張りにもちょっと程があるんじゃない」
今の今までどうやって探そうと真剣に考えていたのが一転して、声の出所を見たくないという気持ちが湧き上がる。
「……臨也さん」
「でもやっぱり愛だよねえ、ねえ帝人君? 君だって今でも俺を好きだろう?」
「貴方みたいな人のことをそんな風に思っていたなんて僕最大の黒歴史だと理解したのでたった今嫌いになりました」
「照れなくていいよ」
「照れてません」
(そういえばこういう人だった!)
まんまと乗せられたという悔しさで目眩がする。まるで離れていた時間なんてなかったみたいに話しかけてくる昔の恋人が、結構本気で腹ただしい。
でもこうして追いかけてしまった以上、変に取り繕っても仕様が無いのも確かで。
「臨也さん」
「んー?」
「好きです」
「うん」
「好きですよ」
「うん」
「…今日、会えて良かったです」
「……うん」
俺も、と呟く臨也さんの声はやけに実感がこもっていて、僕は今日の再会が偶然ではなかったと悟った。僕が最近よくこの店にくると、彼は知っていて張っていたんだろう。そっと抱き寄せられて、臨也さんの手も冷たいので驚く。顔を見ようとすると、それを許さないというように頭を彼の肩口に押し付けられた。
思わずため息が出る。本当に、本当に、わかりにくい人だこの人は。伝わりにくい愛し方をする人だ。
でもそんなこの人が好きなんだから、僕も大概なのかもしれないと諦めて、昔からの恋人の抱擁を受け入れた。