臨帝超短文寄集
7
真白い光に包まれた午後の街。男はオープンカフェの一角に腰を落ち着けて目を閉じた。雑踏の音に耳をすませれば、嗚呼世界はこんなにも人で溢れている。
ざくざくと無数の足音が舗装された道を征く音は、人意をなしに一定のリズムを刻みだす。それは働き慣れた鉱夫が鉱山を掘るがごとき音に似て聞こえた。土に軽快にシャベルを入れていくような音の連続。ざくざく、ざくざく。土の底に価値あるものが眠っていると信じて掘削し続けるような。ざくざく、ざくざく。
無数のただの土塊の中から、そうではない何かを発見したときの喜びは如何程だろうか。男は想像する。自分はそれを知っていると思っている。手作業で土を掻くようなアナログな手法でこそないけれど、でも自分がしていることだって似たようなものだろう。かかった手間を惜しくなかったと思える程の当たりを引き当てたときの心躍る感覚。ああいうのがあるからやめられない。それはにわかに得難い喜びだ。
(鉱山に眠る資源のように、人間の内部には見る価値のあるものが在る。退屈な時間を埋める以上のものがある。どうしようもない鬱屈を、一時にでも晴らしてくれるようなものがある。俺はそういうものをずっと見ていたい)
瞳を開けると、道の照り返しで世界が白く輝いて見えた。強烈な光。一瞬目が眩み、頭が痛んだ。耳から雑踏の音が消え、きいんと張りつめる。ひどく硬質な耳鳴りだ。やりすごすために再び目を閉じてもおさまらないその音のせいで、世界が少し遠くなる。
「あれ、臨也さん?こんにちは」
かけられた声に、また世界が戻って来た。しかし瞳はまだ閉ざしたままでいる。まぶたの裏に思い描く姿は、目の前にいるはずの大当たり。
(俺が見つけた)
「?……あの、気分でも悪いんですか?」
「いや、平気平気。ちょっとね、ただの耳鳴り」
雑踏の音が戻ってきても、もう男はそれに耳を傾ける気にはならなかった。メロウな気分は吹き飛んで、代わりに浮かれた高揚感がじわじわこみ上げてきている。
まぶたを持ち上げれば、想像通りの姿がそこにあった。少し心配気に眉を寄せた少年に笑いかける。彼の微妙な表情に、ふいに胸を締め付けられるような感覚を感じた。約束もなしに知った顔に会えてちょっと嬉しいとかいうことではない。確かに己の中の何かを揺さぶる発見が、そこにはあった。