臨帝超短文寄集
8
彼が欲しいと思うことに理由なんかない。
欲しいって言ったって、全然愛とか恋とかじゃないよ。誰もが探している己の片翼、とかでもない。粉雪のように軽くひそやかにこの胸に降りてくる孤独、そんな淋しさを埋めるためにだなんて誤解されるのは嫌だなあ。そんな詩的な表現が似合うような間柄じゃない。そもそも自分と彼で一対になれるはずがない。お互いに足りないものを補いあえるような関係じゃないんだもの。仮令抱き合ったって、ひどくいびつな形にしかなれないことなんか分かりきっている。
それでも欲しいと思うんだから、これはひどく単純で純粋なただの欲望だ。幸せになりたいがために求めるんじゃない、欲しいから欲しいって言ってるだけの我侭だ。そんなのは勿論一番手に負えない。もしも理由があったなら、理由がなくなれば諦めることだって出来るっていうのにさ。