あの夜の 後篇
男の足音が近づいて、そうしてルートヴィッヒのベッドにすんと腰を下ろした。そうだお前の言ったとおりだよ。腕が伸びてくる。男の腕がルートヴィッヒの身体にまきつく。すがられているようだった。…すこし寝るか。そうして男の腕にまきつかれたまま、横たわった。精の匂いがひどく香る。細いゆびが髪を撫でる。ふたたびまぶたが落ちてくる。まるで昔の兄のようだとおもった。…わりい。吐息まじりのそのひとの声がいやに耳につく。彼の声はもう、震えてはいなかった。…構わない。ルートヴィッヒのくちびるがちいさくうごめく。身代わりでも、構わない。言おうとして、出かかったことばを呑んだ。腕にこめられた力がつよくなる。頬にやわくキスを落とされて、男はそれきり眠りに落ちたようだった。
テレビの砂嵐の音がやまない。細く息を吐く。もうルートヴィッヒの身体はすっかり冴えていた。そうして情をうつしたことをすこしだけ悔やんでいる。
……泣きたいのは俺の方だ、そういう男のことばがずっと頭のなかを反響して、この夜をねむれない。
あの夜の (20110201 / 英×独)