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問わず語り2-挽歌ー

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「…どちらにおいででしたか」
 蘭丸が自分の部屋に戻ると、無月が待ち構えていた。
 世話役とは名ばかりで無月の本当の役目は蘭丸の監視らしい。蘭丸の姿を見失ってあちこち捜し回ったらしく、白い頬が少し赤くなっている。
「少し、城内を歩いてきた」
 咎めるような無月の視線をかわして、蘭丸が答える。
「天魔王さまがお待ちでございます、お支度を」
「…わかった」
 無月に気付かれないように、蘭丸は深いため息をついた。

 蘭丸の部屋には寝具が用意されているが、城に来てからというもの自分の部屋で眠ったことはない。いつも湯浴みが済むと無月に案内されて天魔王の寝室に案内される。
 大殿が使っていたものとよく似た南蛮式の寝台を、天魔王も使っている。その天蓋の下に招き入れられると挨拶もそこそこに押し倒されるのがお決まりだった。
 冷たい指で肌を探られて、小さく蘭丸が声を上げた。城に来てから蘭丸の白い肌に薄赤い痣がなかった日はない。
 夢見酒の夢から醒めた蘭丸には拷問でしかない一時あまりの時間を、蘭丸はひたすら耐える。もともと色事が苦手な上に相手が天魔王とあっては楽しむ気になど、なれなかった。
 しかし、すでに蘭丸の身体は天魔王のやり方を覚えさせられていた。醒めたままの意識を裏切って、身体は与えられる快楽に敏感に反応してしまう。そんな自分の身体を蘭丸は厭わしく思った。
「どうした、蘭丸」
 情事が終わった後、珍しく天魔王が声をかけてきた。指でそっと蘭丸の唇に触れる。噛みしめた唇にはうっすらと血が滲んでいた。
「…別に」
 そっけなく答えて、蘭丸は身支度をはじめる。
「つれないな」
 背中から抱きしめられて、悪寒が走った。反射的に振りほどきたくなるのをかろうじて抑える。
 どれだけ姿が似ていても、この男は殿ではない。そうわかっていても蘭丸には逆らうことはできなかった。もう、ここしか自分の居場所はないのだから。
「お前は、俺のものだ」
 まるで蘭丸の心中を見透かしたかのように、天魔王が耳元で囁く。
「…もう、誰にも渡しはしない」
 白い項に噛み付くようにして、天魔王が告げる。
(わかっているさ、そんなこと)
 目を閉じて、手荒い愛撫に身を任せる。天魔王が執着しているのは『大殿が大事にしていた蘭丸』であって、蘭丸自身ではない。もし、蘭丸がただの小姓だったならこの男はここまで自分に執着することもなかっただろう。
 熱くなる身体と裏腹に、精神はどんどん醒めてゆく。蘭丸は夢見酒に酔えない自分が恨めしかった。

「…ここで裏切ったら、お前や光秀と一緒になるからな」
 真実など、誰も知らなくていい。
 天魔王に騙されて利用されていたことを言い訳にする気もなかったし、命乞いするつもりもなかった。ならば、悪役のままで退場するのが最も相応しいだろう。
 自分の命ひとつで犯した罪が赦されるなどとは思っていなかったが、せめて極楽だけは救いたかった。
「来い、太夫っ」
 背中に刀傷、全身には数え切れないほどの銃弾を浴びて、蘭丸はもう立っているのもやっとの状態だったが、それでも力を振り絞って足を踏み出した。極楽を少しでも天魔王から遠ざけるために。そして、自分を殺すことを躊躇わせないように。
(・・・すまない)
 蘭丸は心の中で極楽に詫びた。極楽の怒りが収まった時、自分が極楽の想いを利用したことを知ったらどう思うだろう。他人の想いを利用したのは蘭丸も同じだった。極楽の怒りを煽って、人生の幕を引こうとしている。
「離せっ」
 蘭丸の下敷きになった極楽が暴れる。跳ねる身体をありったけの力で押さえ込んだ。もう、痛みは感じなかった。想いだけが蘭丸を支えている。
(あとは頼んだぞ・・・捨之介)
 薄れゆく意識の中で、蘭丸の脳裏に浮かんだのは捨之介の顔だった。

 一面の血の海の中に横たわる蘭丸の亡骸を見て、捨之介は息を呑んだ。顔に外傷がないせいで眠っているようにも見えるその死に顔には、薄く笑みが浮かんでいた。
(・・・蘭兵衛)
 その笑顔の意味を、捨之介は知っていた。長い呪縛からやっと解き放たれた蘭丸に今、自分ができることはたったひとつ。
「…天魔王はどこだ」
 こみ上げる怒りを隠そうともせずに、捨之介が吼える。天魔王の首を落とすことが、永遠の眠りについた蘭丸へのたったひとつの手向けになる。
(仇は必ず取ってやる)
 姿を消した天魔王を追って、捨之介は走り出した。
 


<了> 

作品名:問わず語り2-挽歌ー 作家名:よーこ