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【米英】LOST HEAVEN

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「……」
 アメリカは何も云わなかった。ただ、大きく見開いた青い目が俺を見返している。
「俺が求めていた、ロスト・ヘヴン――失われた楽園っていうのは、俺がお前を失ったままだということだったんだ。……それが答えで、だから、俺が本当に探してたのはお前だった」
 旅の間、俺が連れていたのは、俺が作ったアメリカの泥人形だった。それを俺はアメリカだと思い込もうとして、実際、思い込んでいた。本物が出て行ったのをなかったことにして。
 つまり、探すまでもなく、答えはずっとそこにあったのだ――俺が気づこうとしていなかっただけで。
 ううん、とアメリカが唸る。混乱しているようだ。
「何だか良く分からないけど、君はいつ俺を失ったんだい。失ったりしてないだろう?」
 そう云ってアメリカは顔を近づけた。え、と思う間もなく、不意打ちのキス。
「っ、」
 驚いたときにはもう済んでいた。一瞬だけ触れたくちびるをすぐに離すと、トン、と俺の肩口に額を置く。つかの間見えた表情は、拗ねたそれだった。
「君が後ろ向きでしかも思い込みが激しいややこしい性格なのは分かっているつもりだけど、勝手に失ったことにしないでくれよ。そんなのはもう、たくさんなんだぞ」
 最後に付け足された言葉は、淡々としていた。それが逆に心中を表している気がして、俺は目を閉じて頷いた。
「……ああ、そうだな」
 アメリカの云う通りだ。俺はアメリカを失ってはいない。長い間誤解をしていたけれど、そうではなかった。それを知ったのは、つい先日のことだ。
「悪い」
 謝って、目の前の耳に、噛み付くように口付ける。さっきのキスに返す意味も込めて。ぴくん、と反応したアメリカは、慌てた様子で顔を上げた。
「ちょっと君、まだ酒が抜けてないんじゃないかい?アルコールの臭いも酷いぞ!」
「そうか? そうかもな。けどそれは、お前が俺を一晩も放っておくのが悪い」
 そう、だから、おかしな夢も観てしまったわけだし。
 するといかにも仕方ないというように、ふう、と息を吐いてアメリカは云う。
「だからって耳に噛み付くのかい? 君は」
「それは、目の前にあったから」
「……このエロ大使」
 そして仕切りなおしとばかりに寄せられたくちびるを受け入れながら、腕を伸ばし、しっかりとその身体を抱き寄せた。
 ――もう二度と、アメリカ探しの旅を夢に見たりしないように。



(了)