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逢坂@プロフにお知らせ
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【米英】LOST HEAVEN

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「……そうだよ」
 彼は目を細めて頷いた。切ない表情は、何度も見たことのあるものだった。ああ、彼もずっと前から気づいていたのだ。自分が偽者なのだと。
 俺は今やすっかり思い出していた。アメリカはもう、手のかかる俺の弟じゃない。本物のアメリカはとっくに俺の手を離れて、俺の隣にはいない。だからここにいるアメリカ――俺が連れて歩いていたアメリカは、俺が作ったゴーレムだったのだ。
 ゴーレム。それは偽の魂を与えた、ただの泥人形だ。手についたそれの残骸が、彼がそうであることを表している。
 思えば、彼は不用意に俺に触ろうとしなかった。昨夜俺が彼の顔に触れそうになったときに身を竦ませたのも、だからだろう。乱暴に扱ったりしなければ崩れたりしないが、本能のようなものかもしれない。
 だけどたった今それを突き破って、彼は俺を抱き寄せた。それに俺は応えようとした。嬉しい、とさえ感じながら。
 ……いや、違う。アメリカが俺と一緒にいたいんじゃない、俺がアメリカをいつまでも傍に置いておきたかった。そして実際に傍に居させることにしたんだ、たとえそれが、泥で作った偽者であっても。――その理由は、たった一つだ。
「俺……、アメリカを……」
 動揺する俺を見つめながら、彼は云った。
「……イギリス。君が本当に探している物が何か、分かったんじゃないかい?」
「ああ……、」
 俺は言葉を詰まらせる。
 会いたい、と思った。
 ――本物のアメリカに会いたい。たとえ、一目でもいい。嫌われていたって構わない、一言でいいから会って話がしたい。そして何故俺の元から離れていったのか、聞かせて欲しい。
 何も云わなかったが思ったことは伝わったらしい、目の前の彼はふっと満足そうに微笑んだ。
「だったら、俺はもう消えるとするよ」
「アメリカ、」
 思わずそう呼ぶと、おかしそうに返す。
「俺がアメリカじゃないって云ったのは、君だろう?」
「……ああ、そうだったな」
 つられてくちびるを歪ませる。彼は穏やかな微笑を浮かべたまま、くるりと身を翻した。
「それじゃイギリス、短い間だったけど楽しかったよ。……さようなら」
 別れを告げた瞬間、まばゆい光が門の向こうから放たれ始め、彼を覆い始める。
「ア、っ……!」
 口を開くが、何と呼んでいいのか分からずに言葉を呑み込む。やがて完全に光に包まれた姿が、きらきらと輝きながら消えていった。
 眩しさに、俺は一度、瞬きをした。

 **

 日の光が窓から差し込んでいる。目を覚ますと、俺は見慣れた部屋のソファに横になっていた。
「……?」
 風に揺れるカーテンをぼうっとした頭で眺めたのち、ゆっくりと身を起こす。どうやらここで寝ていたようだ。
 ソファはアメリカの家にあるもので、つまりここがそうだということだろう。ということは。
「戻ってきた、のか……?」
 呟いたそのとき、見計らったかのように居間のドアが開いた。
「やっと起きたのかい? もう昼だぞ!」
「アメリカ……」
 俺は中に入ってきたアメリカをまじまじと見つめた。バスルームから帰って来たらしい、Tシャツにスラックスというカジュアルな服装の彼は、肩にフェイスタオルを掛けている。髪はしっとりと濡れたままだ。
「何だい、凝視して。君もシャワーしたいのなら勝手に、」
「本物……だよな?」
「はぁ?」
 遮って発していた言葉に、アメリカはぽかんとしてから、怪訝そうに眉をひそめた。
「君、変態だとは思ってたけど、ついに頭もおかしくなったのかい?」
 呆れながらも俺の隣に座る。どうやら本物のようだ。
「お前はずっとこっちに居たのか?」
「こっちって何だい? 俺はちゃんとベッドで寝たぞ。しばらく前に起きたけどね」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
 どうも会話が噛み合わない。同じことを思ったようで、アメリカはひとつため息をした。
「君、昨夜のことを覚えてるかい?」
「え? 昨夜か。昨夜は……」
 森をずっとさまよって、敵に遭って、アメリカが怪我して。それから、と思い返していると遮られた。
「君は昨日、俺がゲームをする傍らで、一人で飲んでただろう。それから酔っ払って大変だったんだぞ。ゲーム機のハードに酒を零して壊すし、脱いで絡んでくるしさ」
「……」
 まるで身に覚えがない。覚えがないが……段々理解してきた。
「まぁ、客をほったらかしにしていた俺も悪かったから、その点についてはもういいよ。で、君の話は?」
「それじゃ、あれは全部夢だったってことか……」
 導き出した結論を口にすると、アメリカは首を傾げた。
「夢? どんな夢だい?」
「……笑うなよ。俺はお前がやってたゲームの住人になって、夢の中で一週間も旅してたんだ」
 前置きしたにも関わらず、アメリカは盛大に吹いた。
「はは、それはまた君らしいファンタジックな夢だな!」
「うるせえよ、笑うなって! ……それで、ずっと探し物をしてんだけどさ」
 笑い飛ばした割に興味を持ったらしい。へえ、と相槌を打ってアメリカは尋ねる。
「何を探してたんだい?」
「それが分かんねえんだ」
「はぁ? 何だい、それ」
 意味が分からない、という顔に俺は続ける。
「ずっと分からないまま、何か大事なものだという気がして必死に探してんだ。……でも、最後に分かった」
 そこで言葉を切ると、俺は目の前の顔を見つめた。
「俺の探し物は、アメリカ、お前だったよ」