おむすび
血塗みれだった。
どこもかしこも血塗れだった。
提出しなければならない書類を抱え副長室へ向かうと、そこにはすでに先客がいた。
部屋の中には入らず、障子を開けたまま会話しているらしい。まだ肌寒いというのに物ともせず、膝も床につけずに立ったまま。
にさん話して軽く礼を…しない。しないで、
「うるせぇよ土方のくせに」
上司に対してあるまじき発言をし、会話が終了したらしい。俺がそんなことを言ったら半殺しでは済まされません。
その人は副長室から出ると、冬季のみ着用が許されるロングコートを翻し俺とすれ違う。足を止め視線を絡ませると、おもむろに唇をゆるく動かし、やめた。
蘇芳色の目がギラギラした野獣の魂を映して震えている。きっと見回り中に斬ってきたのだろう。今日のシフトから考えてみるに、永倉が共に見回りをしていたはずだったから、あとで何があったか聞いてみよう。見回りルートは確か先日のテロの件の攘夷志士の根城とされる付近を中心にしたものだったと記憶している。
「沖田さん」
駄目だ。どうしよう。
血塗みれだ。
亜麻色の髪にも飛沫が飛んでいる。
頬にも掠ったように痕が。
もう乾いてるようだけれど。
でも。
どこもかしこも血塗れだ。
目が。
目が合った。
空気が滲む。息が止まる。カタカタと顎が軋む。
喉がひくつくのを抑えられない。俺の体なのに何一つ言うことを聞かない。
目で殺される、なんて感じて背筋がゾクリとした。妙な汗が背を伝う。
まずい。
駄目だ。
俺は。
殺される
「山崎ィ」
名前を呼ばれて我に返る。
息。息をしている。俺。俺は。
血液が巡り出したのを感じながらふらつく足を叱咤し、倒れてしまわないよう踏ん張った。
仮にも真選組の隊士たるもの、この程度で怯むわけにはいかない。
「やまざき」
あ、え、え、と途切れ途切れの言葉を紡ぐ。唇が震えていて上手く喋ることが出来ない。
息が苦しい。心臓がやたら煩く踊り狂う。
呆れたように目を緩めた隊長は、唇をへの字にして一言だけ。
「腹減った。なんか作って。」
訂正、二言だけそう言った。