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おむすび

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「やーまーざーきィー」
「はいはい、もうすぐ出来ますから離れてくださいよー」


今日はそういえば一般的には日曜日で、常であれば子供は犬とともに外を駆け回る時間帯だろう。
給仕のおばちゃん達が不在の台所に失敬しておむすびを握る俺。火を扱っているせいか蒸し暑い。

「腹減ったーしぬー」
「そんなことくらいじゃ貴方死なないでしょう。暑いから離れてくださいってば」


腹減ったからなんか作れ、という不条理且つ勝手な命令をしたその人は一旦風呂に入り着流し姿になっていた。この後部屋に行ってまた隊服を着、勤務に戻るらしい。
俺だってまだ片付けてない書類があるんだけどな…。はぁ…。
だが。
ぼんやりとさっきの、蘇芳色の艶めかしくギラつくあの目を、脳裏に浮かべて悟った。

逆らえない。

副長のソレとは格別に違う目。あれは「肉体を切り刻んで殺す目」だった。畏怖を抱き、震え、俺は密かに口をつぐんだ。
命令をした張本人はダラリと力を抜き、体重を任せるように後ろから俺に抱きついてる。いや、覆い被さってるって言うのかなコレ。湯上りのせいもあって余計暑苦しい。
副長室の前で会ったときとは全く別の、屈託ない意地悪面で俺の首を絞めるように絡みつくその人の亜麻色の髪が揺れるのを横目に見やり、炊きたてのご飯をおひつへ移ししゃもじで慣らす。水で手を濡らし手際よく握る俺に関心してくださったのか、
「山崎ィ、お前母ちゃんみてぇだなぁ」
すみません全然嬉しくないです。
なんとも悲しいことに、俺はこの間非番を利用して給仕のおばちゃん達にちょっとした指導を受けてきたばかりなのだ。こういうときのために。うわ、なんか泣けてきた。
「はい、出来ましたよ。具は無難に昆布にしましたからね。鮭が良かったーとかはナシですよ」
ちょっとだけ反抗心を表そうと、思いきりジト目で指についた米粒を食べながら山崎退特製昆布おむすびが乗ったお盆を差し出すと、
「さすがパシリの頂点ザキィ。んぐ、あむ…ん、むあむむむんむああむむあうまうっむひゃむひゅむっ」
「今のは聞き流します。おむすびくわえながらしゃべるのは行儀が悪いですよ、副長にまーた怒られても俺知りませんからね」
使った道具をささくさと片して俺は仕事に戻るべく台所から離れようとした。本当に副長に怒られてしまう。俺が。
「むぐ…んっ、待てよ山崎」
ようやく飲み込んだらしい。呼ばれたら無視するわけにはいかな…


「…おいしかった。ごちそーさん」



目元を軽く緩ませて、隊長はつぶやいた。
笑っているのだろうか。
だとしたら夢かもしれない。
隊長がはにかんでいる。

ごめんなさい気持ち悪いです。

…とは言えなかった。俺もヤキがまわったものだ。

「いえいえ、どういたしまして」

笑顔で返す。俺も。














「あいつ血塗みれだったな」

文机に肩肘をつき楽な態勢をし、すでに紫煙でこもる部屋で煙を吐きながら副長は言う。
沖田隊長と副長室の前ですれ違ったそのすぐ後、俺も副長室へ入った。いや、沖田さんと同じく障子をあけて、沿うように廊下に膝をつき書類を渡した訳だから、正確に言うと部屋には入っていない。
「俺は”殺してこい”とは言ってなかったんだがな…」
生け捕りにしろと言ったんだ、あの馬鹿がッ、と煙草を咥え直す。
「沖田隊長のことですから、何か理由があってしたことでしょう、きっと」
厚かましいかもしれないと思いつつ、思ったことをそのまま副長に伝えると、
「だろうな」
と苦笑した。幼子のいたずらを優しく叱るように。
こういう仕事柄、一本筋のある罪人の中には「いっそ殺してくれ」と懇願する者もいる。
そこへ沖田隊長の判断も兼ねれば、残念な結果になったとしても分からなくはない。しばし待てば、余程のことがなければ口を割るのではないか、と俺も副長も考えた。沖田隊長のやり方にはいつもクセがある。六角事件を思い出しながら俺は「あっ」と発し、
「さっきそこで沖田隊長に会ったときに、腹減ったから何か作れって言われました」
何が良いですかねぇ、視線に込めて副長に問いかける。
「なぜ俺に聞く」
「だって、沖田隊長のことなら副長に聞かないと」
沖田隊長の保護者でしょう?とわざと首をかしげると、
「お前もりっぱになったもんだよ」
眉間にしわを寄せてため息とともに煙を吐いた。

「おむすびがいいんじゃないか」

「…おむすびですか?」
「そこでお前に「作れ」って言われたのも何かの『縁』、だろ」
「むすび…えんむす…、副長、寒いです」
「んだとゴルァ…」
「いえいえいえいえいえいえいえいえ…!何も言ってませんよ、なんにも!」
イライラとどす黒いオーラを纏いつつ、新しく煙草を取り出しカチッとライターで火をつける。まじかよ、ライターまでマヨだ。
「あいつ友達いないからなぁ…頼んだぞ山崎」

「え」

おむすびで縁が結ぶとでも言うのですか。

出来れば女の子と御縁があればいいんですが。
いえいえ、なんでも。










「沖田隊長」
「なんでぃ」
自室に戻るのだろう。もう背を向けていた隊長が俺に振り向いた。
「お腹空いたらまた、声掛けてください」

きっとコミュニケーションを築くのが不器用な人なんだ。
それはよく知ってる。

「…空いたらな」

ふい、と視線を逸らし隊長はすたすたと去る。いつもの無表情で。


蘇芳色の、あのギラギラした目。
おむすびを食べた後の、あの緩んだ目。

両方の目を思い浮かべて、この先も俺はこき使われることを覚悟すると同時に誇らしく思った。

次は具をマヨネーズ(のみ)にしたら、沖田隊長は食べてくれるだろうか、そんな意地悪めいたことを考えながら。


END.
作品名:おむすび 作家名:お茶