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ストロベリー・オン・ザ・ショートケーキ

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一番最後の席に目を向ければ、段々とザンザスからの視線が尖り始めるのを感じた。彼は、怒っている。もしかしたら死者を貶めているとでも考えたのかもしれない…それだけでもう答えが出ているように思えるのだが、彼は気づかないし認めないだろう。
「怒った?」
「……」
「ザンザス」
こめかみがひくりと動く。テーブル越しに腕を伸ばして、そっと彼の手を取った。いかつい、人を殺す、殺し続ける手。この手から魔法のように生み出される甘い菓子が俺は好きで。
「一つ、いい話をしてあげよう」
「……なんだ」
「一度お前に頼んでクッキーを作ってもらったことがあったよね。実はあれ、九代目に渡したんだ。喜んで食べていたよ。美味しい、美味しいって」
「それが、どうした」
あの時彼の人はまだ元気そうだった。日中でもベッドから離れられることは多くなかったが、少なくとも起きあがって甘いクッキーを食することは出来たのだ。
「まあクッキーを渡した後は、普通に四方山話をしてね。いつもと特に変ったところはなかった。クッキーを作った人間のことも言わなかった。お前に許可取ってないからね。うかつに口にしていたら、今頃俺ここにはいなかっただろう?」
否定はなかった。いや、知っていたことだけどもね。
「ともかく、俺はそんな風に過ごして夕方頃には屋敷を辞去することとなった。あまり長く話していると九代目も疲れるだろうと思ってね。実際、彼は見せないようにしていたが、あまり顔色はよくなかった。それでも、九代目はこう言った。いつもの彼らしい微笑みを浮かべて・・・ザンザスによろしく、と」
赤い瞳に走ったのは動揺だろうか。俺は構わずに話し続ける。
「ここでひとつ言っておきたいのが、俺はお前と俺の仲を一度も九代目に話したことはない。感づいていたのかもしれないが、直接問いただされることはなかったし、故に俺との会話でお前の話題が出るのもまれだ。でもね、九代目は言ったんだ。お前が作ったクッキーを食べた後に、ザンザスによろしくってね」
「俺が作ったと分かる訳がない」
乗せられた俺の手を振り払い、彼はケーキに手を伸ばす。動揺は当に通り過ぎたのか、微塵も見えない。いつもと変わらぬ手つきでケーキを切り分け口に運ぶ表情は涼しいものだ。しかし俺にはそれが、取り繕いでしかないことは分かっているので、妙に滑稽で愛おしく感じられる。
「とても簡単なことだと思うよ。ストロベリーショートケーキの上に何を乗せるかってことが、誰にでも分かるくらいにはさ…超直感とか、そういうことは何一つ関係ないんだ。九代目だから……彼が、お前の親父さんだから」
ぱちりと一回まばたきをしたが、結局ザンザスは何も言わなかった。
ここで泣き崩れてもなんというか、今更怖いだけなのでちょうどいいのかもしれない。

ケーキは残り一切れである。美味いことは美味いがさすがにこれだけの量を一気に平らげるのはつらい。特に、最近は体型が気になるお年頃でもありまして。いくつになっても変わらない身体を持つ男を横目でじろりと見てから、そっと彼の方へケーキを押しやった。そして、一口。口の端にちょこっと生クリームがついたのは、見ないふりをしてあげよう。
「ごちそうさま、ザンザス」
「……結局、これ自体に何の意味があんだよ、カス」
やれやれ今更すぎる質問である。それに、ザンザスともあろうものがこんな簡単なことも分からないなんて!
しかし俺は優しすぎるやじを決して飛ばさない。愛のために些細なことを口に出さない分別くらい俺にだってあるのだ。
かわりに俺は、最高の笑顔を作ってやる。美味くも甘いケーキを食った時のように。そして、言う。
「家族の、団欒さ」