無題
「こんなところでなにをしている、ニーナ・アインシュタイン」
振り返ると、部屋の入り口にゼロが立っていた。私は腕の中にあるものを硬く握り締めた。
「フレイヤの研究結果は私が持ち去ります。まだ、やらないといけないことがあるから」
「どうして持ち去る必要が?」
「あなたの側で研究していたくないから」
ゼロの仮面を睨み付けた。なんて、忌まわしい。私の憎しみは矛先を見失っていただけで、消えていたわけじゃなかったんだと自覚した。ユーフェミアさまとルルーシュを殺したこの男を、私はどうしても憎まねばならなかった。私が二人に送ることのできる唯一の餞は、この憎しみだけだった。
「あなたが例え誰であれ、私はゼロが憎い。絶対に許すことができない。突然衝動に駆られて、またナイフを持ち出すかもしれない。フレイヤ以外の形で報復をと考えるかもしれない」
それでもきっと、ゼロは私を見逃すのだろう。なんて偽善的で、惨めなの。私は少しだけ泣いた。存在しない友人のことを少しだけ考えていた。確かにあなたのやろうとしていることは立派だろうけれど、私は悔しい。あなたもゼロが憎かったでしょう。なのにどうしてそんなところにいるの。
「私は、私の憎しみが生み出したフレイヤという存在を消して見せます。そのための研究です。報告は定期的に送らせてもらいます」
「ニーナ」
脇をすり抜けて部屋を出ると後ろからゼロが私の名前を呼んだ。
「学校、行きなよ」
僕はもう行けないから、と誰かの言葉を代弁するかのようにゼロは一文字一文字を噛み締めていた。それでも私は一度も振り返らなかった。