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B.PIRATES その2

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『 君自身が心から感じたことや、
しみじみと心を動かされたことを、
くれぐれも大切にしなくてはいけない。
それを忘れないようにして、その意味を
よく考えてゆくようにしたまえ。 』

          ―――吉野源三郎――――




 …妙だな…  と、白哉は考えていた。
 だだっぴろい船室の中央で、白哉は剣をゆっくりと下げて、考え込んだ。
 白哉は向かってくる敵と戦いながら、敵の船内の奥深くまで侵入してきたが、不審に思うことが多かった。
 船の中には、武器弾薬は必要最小限のものしかない。長期で航海するための物資も積み込まれてはいない。これなら船足は速くなり、浮竹の船に奇襲をかけるのは容易かろうが、逆に言えばこの船は、ただそれだけの目的で、我々に近づいてきたのだ。
 何のために浮竹船を狙う?
 敵の標的は私か?浮竹か?
 敵の正体は誰だ?
 この船と船員を統率している指揮官も、一向に見当たらない。
 
 …浮竹が言っていたように、不気味だな…。

 そんな、白哉の短い間の思索は、周囲でがなり立てる男たちの声によって、中断した。
「見ろ!奴め、ぼうっとしてやがる!やっと疲れてきたようだぜ!」
「朽木白哉の動きが止まってる今がチャンスだ!一斉にかかれ!」
 白哉は、鬱陶しそうに、軽く伏せていた目を上げ、白哉を取り囲む男たちを一瞥した。
 白哉が考え事をしていたのは、船の中腹にある、そのだだっぴろい船室の中央で、四方を敵に囲まれている真っ最中のことだったのだ。
 白哉を囲んでいた一〇名余の男たちが、剣を振りかざして向かってくるのを、白哉は冷たい目で見据え、ポツリと言った。
「そうだな。疲れた。」
 そうして、剣を持つ手を振り上げた。
「貴様らの鈍い攻撃をまともに受けるのがな。」
 そう言って、白哉は瞬時に目の前に居た男達数名を斬り裂き、身を屈めて機敏に背後からの攻撃を避けると同時に、次々と残りの敵を斬り伏せた。
 ものの数秒で、その船室は血の海になり、物音ひとつしない静寂が訪れた。
 白哉は、死体だらけのその部屋でひとり静かに立ち、剣を下げて、五感を研ぎ澄ませた。

 …船上での戦いの音が治まっている。勝敗が決したか。
 船の中にも、もう不穏な気配や殺気は、一切ない。
 この船の指揮官・首謀者は、船上に居たのだろうか? ならば、もう浮竹らによって確保されたことだろう。

 …上がろう。

 白哉は、剣を鞘に収めて、甲板に出るべく部屋の出口に歩を進めた。
 そのときの白哉は、油断をしていた訳ではない。敵船の中にいることもあり、常よりも神経は研ぎ澄まされていた。だがしかし、そのとき白哉は、白哉が歩み寄っているその出口の外に、気配を殺して立っている一人の男の存在に、全く気付いてはいなかった。
 その男は、微動だにせず、このときを待っていたかのように、其処に居た。編んだ黒髪に褐色の肌。開かれたその目には瞳孔がなく、白い眼球しかないことが、その男が盲目であることを物語っていた。男は、目が見えないぶん、他の感覚が常人より秀でていた。音を感じることも、気配を感じることも気配を殺すことも。
 男は剣を構えて、じっと待っていた。
 扉のない部屋の出口に、白哉は一歩一歩、近づいてきている。
 …あと三歩。…あと二歩。
 男がゆっくり剣を振り上げた。部屋から出てくる朽木白哉の頭上に振り下ろすまで、…あと一歩。
 その瞬間、部屋の出口から真っ直ぐに延びている廊下の向こうから、叫び声が聞こえた。
「白哉!止まれ!!」
 部屋から一歩、足を踏み出しかけた白哉が、その声の剣幕に驚いて、体を止めた。
「浮竹?」
 浮竹が走り寄って来ている。何事かあったのか?
 白哉は浮竹に歩み寄ろうと、もう一歩、足を踏み出した。
「!」
 完全に部屋の外に出た白哉は、すぐ隣にたたずむ黒い人影に、すぐに気がつき、身構えた。が、それは完全に手遅れであった。
「白哉!!」
 浮竹の叫び声と同時に、必死で身を屈めた白哉の頭上に、盲目の男の剣が振り下ろされた。
 瞬間、…ザンッ…と、風と肉を切り裂く嫌な音が聞こえた。
 強烈に、血の臭いがした。
 白哉は床に倒れこみ、驚きに目を見開いた。
 白哉に、斬られた痛みはなかった。床に倒れこんだのは、大きなものが覆いかぶさってきたからだ。
「…浮 竹…… 」
 白哉の頬に、パタパタと血が降ってきた。
「浮竹!」
 白哉がわずかに身を起こして見ると、目を閉じて意識を失っている浮竹の顔がすぐ近くに見えた。勢いよく血が流れ出ているのは、肩から二の腕いっぱいに切り裂かれ、骨も見えかけているような深い切り傷からだった。白哉の服が、浮竹の血でみるみる染まっていく。
「浮竹…」
 白哉は一瞬、血の気が引いた。

 …浮竹が、身を呈して私を護った。 私のせいで、浮竹が……

 自責の念にかられ、白哉がひどく狼狽しかけたのは、ほんの一瞬であった。
 すぐ近くから己に向けられた、底冷えがするような殺気に、白哉の全身が総毛立ち、一気に現実に引き戻された。
 殺気を放つ盲目の男は、剣に付いた浮竹の血を軽く払いながら、床に倒れたままの浮竹と白哉に近づいて来ていた。
「…く…っ」
 白哉は、傷ついた浮竹を乱暴に動かしてはいけないと思いながらも、近づいてくる男に抗戦すべく、自分の上に覆いかぶさったままの浮竹の下からなんとか這い出そうと、顔を歪めて身を捩った。
 盲目の男は、そんな白哉の状況を目で見るよりも的確に把握していた。男はゆっくりと口を開いた。
「貴方を捕らえるのに邪魔が入ったと思ったが、浮竹は殺しておかねばならぬと考えていたところだ。二人一緒になってくれるとはありがたい。」
 男は感情を持ち合わせていないような冷たい口調でそう言って、すう・と剣を振り上げた。
「朽木白哉。お覚悟を。」
 男が浮竹と白哉に向かって剣を振り下ろそうとしたその瞬間、男がびくりと身を震わせ、瞬時に後ろに身を引いた。
「!」
 ビュウと風を切り裂く音を鳴らしながら、右方向から真っ直ぐに飛んできた一振りの大きな剣が、男の鼻先を掠め、すぐ横の廊下の壁に深々と突き刺さった。豪快な音を立てて木の壁に穴を開けたその剣は、突き刺さったときの衝撃の余韻を主張かの如く、盲目の男の目前でビリビリと震えていた。
 男が後ろに避けなかったら、その剣は男の頭に根元まで貫通していたことだろう。 男はくっと息を詰めて、見えない目を見開き、即座に剣の飛んできた右方向に顔を向けた。
  …投げたのは誰だ…!
 男は、廊下の向こうから漂う殺気を全身で感じ取った。

  …この圧倒的な存在感。驚異的な…気配。

「…京楽春水…!」
 盲目の男は、はっと気付き、眉間に皺を寄せた。
 足元では、浮竹が覚醒する気配。そして白哉が動き出す物音。廊下の向こうからは、京楽春水が、もう一振りの剣を振りかざし、こちらへ走ってくる。…その殺気。

 …不利か…。

 盲目の男は、すう・と冷静な表情を取り戻し、素早く剣を捨ててばっと身を翻した。そして、もと白哉が出てきた部屋へ駆け入り、真っ直ぐに窓に向かって猛進した。
 京楽が「ちっ!」と舌打ちしながらそれを追いかける。
作品名:B.PIRATES その2 作家名:おだぎり