こらぼでほすと すとーかー2
変色しないようにレモンを振りかけられていて、口当たりも滑らかだ。それを先に口にしているティエリアに、なるほど、子供メニューでいいんだな、と、ロックオンは、今後のメニューを、こっそり決定していたりする。
大型スーパーで、アイスノンをふたつ購入ミッションを無事に終えた刹那は、てってかと軽く走って帰路を急いでいた。あの何があっても壊れないはずのティエリアが熱を出したので、刹那なりには心配しているからだ。ちなみに、ロックオンに関しては、現在、刹那的にはガラス細工並みの扱いを心がけていたりする。
てってか走っている横に、人影ができた。横には、スーツ姿の金髪男が併行するように走っている。
「少年、何を急いでいる? 」
ここんとこ、朝のロードワークに、いつも声をかけてくるうっとおしい男だ。意味不明の台詞満載なので、どっかがおかしい変人と刹那は無視している。
「きみと二度も会えるのは、やはり、私たちは運命の出会いを果たしたと言えるのではないだろうか。・・・少年、一度、ゆっくり話をしないか? 走っていては、なかなか親密な会話は楽しめない。」
で、腹の立つことに、この男、刹那がどれだけ飛ばそうと、きっちりと並行してくることだ。体格的に筋肉ががっしりとついているので、それなりに肉体を使う仕事をしているらしい。自分の家を特定されては困るから、とにかくしっちゃかめっちゃか走り回って、狭い路地なんかで振り切るのだが、それだと時間がかかる。さて、どうしたもんか、と考えていたら、いきなり左腕を取られた。
「少年、少し私の話を聞いてくれないか。」
べしっと、アイスノンの入った袋で、その男の腕を殴りつけて、かなり本気でダッシュした。何事だ? というか、あいつ、クルジスで会ったよな? とか、いろいろと考えているのだが、触られたところが非常に気色悪い。しょうがない、非常事態だ、と、もう一度、大型スーパーへと走り出す。撒いてこなければ、どうにもならない。人ごみの中なら、それなりに障害物もあるから撒ける。
しかし、敵も然るもので、この鬼ごっこは二時間もかかって、決着がつかない。そうこうしていたら、携帯端末に着信した。
「迷ってるのか? 」
帰りが遅過ぎると、心配したロックオンからだった。さすがに、変人に追われていると正直に話すのも気が引けたが、変人は目の前だ。
「すまない、アクシデントだ。」
「はあ? 」
「変なのに追い駆けられている。」
「なんだって? 」
「撒けないんだ。もう少し時間がかかりそうだ。」
てってかとスーパーを走り回りつつ、この会話をしているのだが、刹那にとっちゃ、すでに衆人環視なんてものは意識の向こうだ。しばらく、考えていたロックオンは、場所を聞いてきた。スーパーだと言うと、車で迎えに行くから、道路に面した玄関に十分後に出て来い、と、命じた。
「とりあえず、逃げてろ。いいな。」
「わかった。」
会話に集中していたら、変人が、すぐそこまで追いついてきた。何が目的なんだ? と、刹那にしては珍しく焦る光景だ。生身で、こんなに執拗に追い駆けられたことはないし、体力的に自信があるから、追い駆けられても逃げる自信もあった。それなのに、息は弾んでいるものの変人は、笑顔で、「少年、鬼ごっこは終わりにしないか?」 とか、爽やかに語りかけてくるのだ。
「何が目的だ? 」
「きみと深く知り合いたいと思っている。きみは、クルジスで出会った少年だろ? それが、こんなところで再会できるとは、まさに運命だと思うのだ。この出会いに、私はきみと運命を感じる。おそらく、きみは、私の運命の恋人だ。抱き締めたいと、率直に思ったのだよ。どうか、運命に逆らわないでくれないか。」
いや、それは、おまえの主観で、俺には運命ではない、と、刹那のほうも叫んで、やっぱり逃げ回る羽目になる。てってかと、十分間走り回り、スーパーの玄関のほうへ出るとクラクションが鳴った。白い車から、見慣れた覗いている。
「来いっっ。」
とにかく必死で、そのクルマに乗り込んだ。ドアを閉めると、すかさずロックがかかる。ドアには、その変人がへばりついたが、それすら振り切って、クルマは走り出した。しばらくは、マラソンのように変人が後ろから追走していたが、スピードをあげると、その姿も消えた。
「あれ、なんだ? 」
「・・・わっわからない・・・・・だが、ナンバーが・・・・」
「ああ、クルマのナンバーなら大丈夫だ。見えないように、誤魔化してある。」
しばらく、違う方向に走ってから、マンションに戻るよ、と、ロックオンは、ひーひーと息を切らしている刹那の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。
作品名:こらぼでほすと すとーかー2 作家名:篠義