こらぼでほすと すとーかー2
「・・・・譲歩して・・・・パンプキンでモンブラン風・・・・」
「ああ、それならできるよ。」
などという、甘甘全開の会話なんてものを、のんびりやっていると、唐突に、居間に置いている携帯端末が着信音を告げてくる。仕事の関係者は、こんな時間に電話をしてこない。だいたい、アスランたちが、ホスト稼業に転職してからは、元の職場の関係者とは、すっぱり縁は切った。
「キラ、ちょっと離れるよ? 」
「やーーー」
「でも、ほら、電話が。」
「無視。」
ある程度で、着信音なんてものは切れるものだ。急ぎじゃないなら、何度もかかってくることはないだろう。と、思っていたら、今度は呼び鈴だ。
・・・・・あ・・・・・・・
さすがに、呼び鈴には、キラも目を開けた。エントランスのインターホンなら無視できるが、これは、部屋の玄関のものだ。
「刹那? 刹那? 」
今までのまどろみなんてものは、はっきりと決別してキラは、パタパタと玄関へ走って行く。そう、今、部屋の玄関のインターホンを鳴らせるのは、二階下に引っ越したマイスター組だと思われたからだ。それも、常識人のロックオンが、呼び出ししてくるぐらいだから、急ぎだとも判っている。やれやれと、やや残念そうに、アスランもベッドを飛び出した。
もちろん、扉の前には刹那がいて、キラに事情を説明しているところだった。
「アスランっっ、お医者様っっ。ティエリアが熱出したんだってっっ。」
「え? ロックオンじゃなくて? 」
「うん。早く、呼び出してっっ。」
ダウンするならロックオンというのが、ここんところの通例みたいになっていたから、アスランも驚いた。コーディネーターと遜色ない身体機能を有しているはずのティエリアが発熱するなんて、だだごとじゃない。
いつものまったりとした朝は、とんでもない騒ぎにかき消されてしまった。
接客練習を兼ねたプレデビューの仕事が終わって、まあ、疲れたから、とりあえず休もうというロックオンの音頭で、早々に就寝した。
翌朝、刹那は、ジョギングに出かけるのに、いつも通りに起床した。隣りに寝ているロックオンも、それに伴って起きる。何にも食べないで走るのは、よくない、と、とりあえず、ホットミルクなんてものを用意して、刹那に飲ませてくれる。それから、洗濯に取り掛かるのを、確認して、刹那は、小一時間のロードワークに出発した。
次に起き出すのが、アレルヤで、朝食の準備をしてくれる。簡単に掃除機をかけて、そろそろ食事の準備ができるだろう頃に、刹那も戻ってくる。
食事は、なるべく全員で、と、ロックオンが命じているので、渋々ながら、その時間にはティエリアも起きてくるのだが、なぜか起きてこない。
しょうがない、と、ロックオンが起こしに部屋へ入ったら、枕を投げつけられた。
「おいっっ。」
「ロックオンは入室禁止だっっ。アレルヤを連れて来い。」
昨日なんかやらかしたっけ? と、ロックオンは、首を傾げつつアレルヤを呼んだ。アレルヤが部屋に入って、しばらくぼそぼそとした会話が聞こえた後に、「ええっ。」 と、アレルヤは叫んで飛び出してきた。
「ロックオン、ティエリアが結構高い熱を出してる。」
「はい? 」
「ああ、だから、ロックオンは近付かないでっっ。とっとりあえず、クスリを・・・・」
なるほど、と、ロックオンと刹那も納得した。ティエリアが何かしらのウイルスを貰ってきたのなら、看病したら確実に感染するからだ。
「クスリより、診察してもらったほうがいいな。」
自分が看てもらった医者が近所なら、そこへ連れて行けばいいだろうと、アスランのところへ電話をしたが、出てくれない。まあ、休日の朝だから、そういうもんだが、さすがに、これは緊急だから敢えて邪魔させてもらうことにした。
「刹那、アスランとこで、ピンポンラリーして叩き起こせ。医者の連絡先だけメモしてもらって来い。アレルヤ、ティエリアに水分補給させて着替えを出してやってくれ。」
ふたりに指示を出ると、同時に、ふたりが弾けた様に、動き出す。お楽しみの朝に邪魔してごめんな、と、内心でアスランとキラに謝りつつ、ロックオンは、ティエリアの部屋の前から内部のアレルヤに細かな指示を出した。
土曜日の朝で、幸いにも医者は、すぐに捕まった。元々、ラクスの専属主治医なので、ラクスの関係者の診察などを一手に引き受けているらしい。フットワークも軽く、連絡をして一時間もしないうちに往診に現れた。
「一応、血液検査もしますが・・・・・・・過労とかストレスによる発熱ではないでしょうか? 風邪の症状ではないので、そちらの心配はないでしょう。」
「過労? 」
「過労というか・・・・・・有り体に申し上げると知恵熱みたいなもんでしょうね。昨日、初めて接客サービスの仕事をされたとのことだから、精神的に疲れたというか、ショックを受けたというか、そういうもんだと思います。」
まあ、大したことはないですから、と、医者は、飲み薬を置いて帰った。アスランたちも、あんぐりと口を開けている。
「知恵熱? 知恵熱って・・・・・あれだよな? ちっちゃい子供が、発熱するやつ。」
「でも、無理もないんじゃないの? ロックオン。ティエリアは、ああいうの初めてだったんだし・・・・昨日は、すっごく緊張してたから。」
そう言われてみれば大人しかったかもしれない。まあ、そういうことなら、問題はないだろう。待機してくれていたアスランたちにお礼を言って、少し遅くなった朝食を一緒に食べることにした。もちろん、クスリを飲まなければならないティエリアにもアレルヤが配達した。当人がへ診断結果に一番びっくりしたらしい。
とりあえず、入用なものを刹那を荷物持ちに買い物に出かけた。帰って来て、荷物を取り出したら、肝心のアイスノンを忘れたことが判明する。親猫でも、気は動転するものらしい。
「刹那、悪いけど、枕タイプのアイスノンを二個、買ってきてくれ。」
「了解した。」
近所に、なんでも売ってる大型スーパーがあるので、買い忘れも、ひとっ走りで調達できる。さっき、刹那には、スーパーでハンバーガーを食べさせたから、しばらくは空腹にはならないだろう。知恵熱のティエリアには、ミルク粥を作るつもりだし、アレルヤには、ハンバーガーを買ってきた。手早く、料理して、ティエリアの部屋に声をかける。
「アレルヤ、 どうだ? 」
「うん、随分と楽にはなったみたい。」
「おまえ、メシ食って来い。ちょっと交代するよ。」
「ありがとう。」
まだ熱があるらしいティエリアは、もぞもぞと起き上がる。食事しないとクスリが飲めないとアレルヤから説明されたので、大人しく食べるつもりらしい。
「すまない、ロックオン。・・・・まさか、こんなものがあるとは・・・・」
「人間だからな。」
「ああ、そうだな。」
「どれでもいいから、食べられそうなものを口にしろ。」
「これは? 」
「すりおろしりんご。」
作品名:こらぼでほすと すとーかー2 作家名:篠義