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雪景色にて

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「なあ帝人、今から出かけたい。もしかしたら日にち越えるかもしれねえ。いいか」


そう低く掠れ声で、恐る恐る言われたら頷くしかないだろう。
携帯電話から聞こえる電波に乗せられた静雄の声に、帝人は今日から三連休で本当に良かったと心の中で安堵の息を吐いた。電話を握る手の力を少し強めて、見えていないと分かっていながらも頷く。断るはずがない。時刻を確認する。今は八時過ぎ。夜である。


「ええ、構いません。どこで待ち合わせますか」

「なるべく暖かい格好で駅に来い」

「はい、今すぐ行きますね」

「・・・ああ、待ってる」


用件だけの短い通信を終えて、早速用意を始める。着替えて、首もとまであるセーターとコートを着込む。日にちと言っていたから、宿泊の準備を簡単にした。まだ東京は冬だ。今年は去年よりは暖かいけれど、それでも寒いものは寒い。靴を履いて、マフラーを首に回した。手袋をしっかりはめて、外へ出る。冬の寒さを見せつけるように、息が白い。鼻が寒いから、手袋をはめた手を鼻に当てて駅まで急いだ。どこへいくのだろう。そんな期待に似た疑問を抱きながら。


駅まで行くと、珍しく私服の静雄がいる。
バーテン服ではないその格好に珍しいと思いながらも、格好良いと真っ先に思った。サングラスはかけていないし、暖かそうなミリタリージャケットも似合っている。腕を組んで目を瞑りながら待っている姿は本当に様になっていた。この人が本当に僕なんかの恋人でいいのかな、と帝人は思いながら声をかける。


「静雄さん」


その一言にぱっと目を開けた静雄がこちらを見て、穏やかに笑う。

「帝人・・・急いで来たんだな、鼻が赤い」

筋の張った大人の男の指が鼻を触る。ひやりとしたその冷たさに、帝人は思わず小さく悲鳴をあげた。静雄はそれに悪いと言いながらも、嬉しそうだった。


「じゃ、行くか」

「静雄さん、えっと、どこへですか?」

「行けばわかる」


その短い返答をし、静雄は帝人の手を引っ張る。手袋越しに伝わる温度は暖かい。静雄の体温はきっと上の方なのだろう。帝人は手袋をしてきたことをはじめて後悔した。どうせなら素肌越しで繋ぎたいとは思うほどには、静雄と親密であるために。


駅内へ入る。相変わらず人の多い駅だ。
静雄が進んでいき、自分が普段使うような路線とは少し外れた路線へ進む。


「電車に乗るんですか?」

「ああ」


静雄と一緒に電車に乗る。
夜とはいえ、人の多い電車だ。静雄はこの中で大丈夫なのだろうか、と横を見てみるがただひたすら帝人を見つめていて、どうやらこれで耐えているらしい。握る手が震えている。おそらく力加減もかなりがんばっているのだろう。帝人は胸が温かくなって、一端静雄の手を離す。


「・・・あ、」

「ちょっと、待ってくださいね」

手袋を外して、持ってきたショルダーバッグに入れる。そうして暖かい電車内で、静雄と手を繋いだ。暖かい熱に触れる。帝人自身が冷え性なためか、熱が良い感じに暖かく安らいだ。静雄の顔も緩んでいた。






そうしていくつか乗り継ぎをして、気づけば知らない駅だった。
途中で予約した、と駅員に言っていたが何のことだろうか。
そう時間も経たずして列車が来る。どうやら寝台列車のようで、はじめから静雄は日をまたぐ気だったんだと知る。案内人に先導され、帝人と静雄は一室についた。


入った部屋は暖まっていて、すぐ見える寝台は二台。風景を見えるように大きな車窓、簡易テーブルが傍についている。帝人はずっと手を繋ぎっぱなしの静雄を振り返った。


「あの・・」

「ん?」

「そろそろどこへ行くか、教えてください」

「・・・秘密、だな」


くしゃり、と頭をかき回される。それにむくれれば、笑われる。もう、と肩を落として帝人は繋いでた手を離して車窓に近寄る。深夜の風景は暗くて分からない。民家の明かりも消え、ただ夜の静寂が外を満たすだけだ。がたん、ごと。特有の音と揺れが慣れると、睡眠を促すようであくびが出る。時間はもう深夜になっていた。


「着いてからのお楽しみだからな。ひとまず寝ろ」

着く先が気になったが、静雄はどうも教えてくれそうにない。帝人は諦めて寝台に入ることにした。寒くないように布団を寄せて、くるまる。すると当然のように静雄が入ってきたものだから驚いた。


「え!」

「・・・駄目か?」

「だ、めじゃないです」

反射的に答えてしまって、顔が赤くなった気がする。うわあ、と首をすくめれば静雄が笑った気配がした。それからぎゅっと固いが暖かい腕に抱かれる。安心する人の温度、心音が間近にある。どうしようもないほどの安心感を覚えて、帝人は優しいぬくもりに抱かれて、とろり、と意識を溶かしていく。静雄は段々眠りに落ちる腕の中の帝人を幸せそうに見つめながら、自分もまた穏やかに眠りを甘受せんと目を閉じた。





冷たい空気に目が覚める。
どこか鋭利さを持った空気の冷たさに帝人は意識を覚醒させた。


ここはどこか、と考えて昨日静雄と夜行列車に乗ったのだと思い出す。静雄はまだ寝ているらしい。小さな寝息が頭の上から聞こえている。車窓は寝る前にシャッターを降ろしていたから、外の景色はよく分からない。
身を起こそうにもしっかり静雄の腕が自分を拘束しているため、うまく体を起こせずにいる。

「静雄さん、朝ですよ」

「・・・ん、・・・」

体をどうにか反転させて、寝ている静雄に声をかけると僅かな反応があった。


「朝になりましたよ・・わっ」

「もう・・・か・・・?」


首もとに静雄の顔が潜り込んだ。ぺろっと生暖かい感触。
どうやらなめられたらしいが静雄は無意識らしい。眠そうな声で帝人に尋ねていた。

「ええって、ちょっ・・・静雄さん、やめてください」

「・・・おー」

「おーじゃなくてですね」


朝からくっついたり離れたりしていると、車内の放送がかかる。どうやらあと三十分ほどでつくらしい。ご乗車いただきありがとうございました、という事務的な声が備え付けられているスピーカーから聞こえていた。

窓のシャッターをあげようとすれば、静雄に止められた。
まだ、ということらしい。ひとまずそんなに散らかしてはいないが、とりあえず荷物を片付けた。寝台の上で少し静雄と休んでいるうちに電車は目的地についた。静雄が暖かい格好をしろと言う。来たときのように着込んで、外へ出る。


ようやく外だ、と思った瞬間に静雄に深い帽子を被らされて目の前が見えなくなった。


「な、なにをするんですか」

「悪ぃ。でもまだだ」


楽しそうな声だ。帝人は、なんなんだ、と思いながらも静雄の手に引かれていく。全身で感じる寒さが東京で感じるよりもっと張り詰めているような気がする。吸う空気が透き通っていた。足音はサクサクとしたものにいつの間にか変わっている。

そうして手を引かれて、恐らく駅を出て、そのままバスに乗り込む。
何分か乗った後で、どこかへ降りる。
先に降りた静雄がようやく帝人の帽子を外した。




作品名:雪景色にて 作家名:高良