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背中の守りは任せたぜ

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奥州で飢饉が起きた。たとえ有事に備えての蓄えがあったとしても、それは有限である。次の収穫までまだ見込みが無いのにもかかわらず、残酷にも蓄えは僅かなものになってしまった。下々の間で既に、働き手とならなくなった老人が一人、また一人と消えていった・・・その情報はもちろん、奥州を治める伊達政宗の元に届けられた。

「・・・姥捨てか」
締め切られた室内で呟く政宗。一度息を吐き、障子に目をやった。
「何か用か?」
「はっ」
返事をしたのは小十郎だった。情報を届け、用事を済ませたにもかかわらず未だ障子の外に居たようだ。武士と言う身分にありながら田畑を耕していた小十郎だ。姥捨ての話は彼の耳にも既に入っているのだろう。間があった後、障子は静かに開かれた。
「政宗様にお願いが・・・」
「入れ」
言われて小十郎は室内に入り、障子を先ほどの状態に戻した。直ぐに政宗に近づき、両膝をついて頭を下げた 。
「この小十郎を、例の山へ連れて行ってもらえませぬか」
「なにっ!?」
突然の申し出に唖然とする政宗。「姥捨て」の行為をどうするか云々とでも話すと思っていたのだろう。まだ飲み込めない政宗に対し、小十郎は顔を上げて言葉を続けた。
「幾年も前に受けた傷で戦場に立てなくなったこの身です。武士としての役目は当に終えてしまいました。それなのに今の今まで生きてきた始末。下々が次々と減らされる中、小十郎がのうのうと城の中で生きていくわけにも行きません。それに・・・」
苦虫を噛み潰したような顔をして言葉を詰まらせた。
「子供が間引きされようともしています。」
「・・・・。」
「子供は将来の担い手でございます。それを食料のために手にかけるなど、小十郎には許せる事が出来ないのです。武士である手前、理由なく腹を裂くことは出来ません。ですから、政宗様に・・・いや誰でも良いのです。小十郎を」
「shut up!!」
これ以上聞きたくないと言う代わりに、制止させるために声を出した口調だった。政宗は眉間に皺を寄せて小十郎を見た。
「小十郎、お前が山に行く事で国が変わるのか?この飢饉がどうなるとでも言うってのか?」
政宗の鋭い視線が突き刺さる。小十郎は膝の上に乗せていただけの手を硬く握り締めた。
「ならねーだろ。テメェの方が分かっているだろう、そんなことしても食料の減りが留まることはないってな。」
最もな意見が小十郎に返って来た。だが小十郎は引かなかった。
「ならばここで腹を切るまでです。理は見つけました」
腰に付けられていた短刀に手を伸ばす。刃を柄から抜くと、締め切られて薄暗くなった部屋で、その刃が鈍く光った。その間に右腕で着物を半分脱ぎ、数多の戦で負った傷が政宗の目に入る。
「先に天に逝き、政宗様の天下を見守りましょう」
刀の先が小十郎の腹に触れ、一筋の血が流れる。

「待て!」

作品名:背中の守りは任せたぜ 作家名:ギリモン