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背中の守りは任せたぜ

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小十郎を背に乗せた政宗が館の外に出ると、空は雲に覆われて月が見られなかった。月明かりが無かったため、小十郎が持つ松明の炎だけが二人の安全を護るようだった。館を出てから山へ入るまでは誰にも見つからないよう、政宗は無言で歩く。山に入り、数歩進んだところで政宗が口を開いた。
「小十郎、お前・・・軽くなったか?」
「いえ、そのような事は無いかと」
そして二人は再び無言になった。ザクザクと、歩を進める音だけが木霊する。
「ご立派になられましたな」
静寂を切り開くように、今度は小十郎から離しかけた。
「ご幼少の頃は小十郎を担ごうとなされても、ビクともしなかった・・・それが今は軽々と持ち上げ、山をも登っておられる。」
「そりゃあな。ガキの頃と比べりゃ力もついた。知識も身についた。位だって、この奥州で上は居ない。後は・・・」
ここで一呼吸置いた。
「天下だけだ」
「天下だけですな」
二人が同時に言葉を発した。思わず笑う二人。明るい雰囲気とは裏腹に、空からは雨粒が一滴、また一滴と降って来た。ここでふと政宗が後ろを振り返った。僅かな灯りだけでは、山のどこら辺に居るのか分からなくなってしまいそうだ。しかも雨がこれ以上降ると、僅かな灯りを与えてくれる炎も消えてしまうだろう。そのような事になれば、政宗も戻る事が出来なくなってしまう。二人の時間が急に動き出した。
「政宗様、そろそろ・・・」
「あぁ、そうだな。」
肯定はしても小十郎を降ろさなかった。
「政宗様・・・」
「・・・。小十郎、そこの木の枝を取って、火をつけろ。」
突然の要求で首を傾げつつも、小十郎は言われた通りにした。
「オレがお前を降ろしたら、その枝はお前が持て。今日だけはその火は絶やすなよ。あとは・・・約束通り、この場所をお前の墓とする。お前が残したものを何度かに分けて供えさせる」
「はい、お願いいたします」
「これからは同じ地で生きるが、住む世界は変わる。会う事はねーだろう。だが、オレはこれからも小十郎、お前を臣下だと思う。いや、オレの臣下だ。別れの挨拶なんざ言わないぜ」
「政宗様、ありがたきお言葉です。この小十郎、政宗様の天下をこの山で見届けましょう」
言い終えると、政宗はゆっくりと小十郎を降ろして数歩離れる。そして一度、小十郎の方へ振り返った。姿を目に焼き付けるように、ジッと彼を見る。そして踵を返して山を降りていった。この時、小十郎の目には政宗の眼から一粒の雫が零れたように見えた。奥州筆頭の伊達政宗が、このように一人のために涙を流す事などないだろう。雨が見せた幻覚なのだったろうか。答えは本人のみが知る。

<完>
作品名:背中の守りは任せたぜ 作家名:ギリモン