背中の守りは任せたぜ
数日後、夜中に政宗が小十郎の館に姿を現した。
「小十郎、最後にもう一度問う。・・・いいのか?」
「はい。政宗様を訪ねたときより覚悟はできております。」
「そうか。」
そう言って政宗は小十郎に背中を向けてしゃがんだ。
「・・・・・・。」
「どうした?早くしろ」
「よろしいのですか?」
「何がだ?」
政宗の後ろに立ったまま、若干戸惑った表情を見せる小十郎。それを顔だけ向けて見る政宗。どこか暖かい空気が流れる。
「小十郎が政宗様の背中に乗るなど」
「Don't worry. 気にするな。むしろオレがやらねーと駄目だろ」
「そうでしょうか。それに、他にも手段は・・・」
家臣であった小十郎が奥州の筆頭である政宗の背に乗るなど、あってはならないことだろう。躊躇うと言うよりも、この行為を政宗に行なわせたくないと思ったのだろうか、一歩、また一歩と政宗から遠ざかった。それを見た政宗は立ち上がり、無言で小十郎の両手首を掴んで自分の両肩に腕を乗せさせた。そして足を踏み出す。が、小十郎の足は地に付いたままだったので前進する事が出来なかった。
「HA!これじゃ進まねーな。おい、小十郎!」
政宗は子供がイタズラを思いついたような顔をし、手を離して小十郎に振り返り屈むと、右腕を小十郎の膝裏に手を入れて彼を持ち上げた。
「なんとっ!」
「こうやって横抱きにされるのと、オレに背負われるのを選べ。」
「二択ですか・・・」
「当然だろ?オレに任せるんだ。覚悟は出来てたんだろ?」
ニヤリと効果音をつけるのが妥当であろう笑みを浮かべた。それを間近で見た小十郎は溜め息をついた。
「このような覚悟はしておりませんでした。・・・政宗様、背負ってくだされ。」
「OK.背負ってやる」
満足した表情をしながら小十郎を降ろす政宗。小十郎はもう一度溜め息をついたが、政宗は気にした素振りを見せず、先ほどと同じ様にしゃがんだ。今度は小十郎から政宗の背に歩み寄った。
「政宗様は相変わらずですな。まったく、無茶をなさる」
「小十郎もな・・・っと!」
自分よりも体格のよい小十郎を背負い、政宗は小十郎の館を出た。
作品名:背中の守りは任せたぜ 作家名:ギリモン