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鵞鳥のヘンゼルと魔女のグレーテル

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「いいから、食え」
 再度大きい方のあんぱんをズイッと押しやると、帝人の眉がキュッと寄る。
 何となく、帝人は押されたら押されっぱなしなタイプだと思っていたが意外と頑固な面があるらしい。静雄は軽く舌を巻くが、かといって静雄も引く気は一切無いので、同じように眉を寄せて見せた。迫力の違いは言うまでもない。
「あの、ですから静雄さんの・・・・・・」
「竜ヶ峰、これで言うのは最後だからな」
 如実に悪くなる静雄の機嫌を感じ取りながら、尚も拒否しようとする帝人の言葉に、静雄が肺に溜めた息をフーと吐き出しながら苛立った声を被せた。
「――食え」
 静雄の絶対零度の声に、一瞬あたりの空気が凍りつく。
 周囲にいた者達は、まるで自分たちが静雄の怒りをかったかのように体を竦ませたりして足早にその場を去った。どこからともなく子どもの泣き声までもが聞こえる。
 かくゆう静雄の苛立ちを真っ正面から受けた帝人はといえば、大蛇に睨まれた矮小な蛙のごとく固まっていた。
 そんな様子を見て、気をあてすぎてしまったのかもしれないと少し内省する。が、大体にして静雄は、最前から延々繰り返している七面倒くさい譲り合いに辟易していた。我慢とか忍耐だとかもいい加減限界だ。力の方は以前よりもコントロールが図れるようになったとはいえ、堪忍袋の緒が常人のそれよりも遙かに切れやすいことに何ら変わりないのだ。
 しかも静雄は今、帝人に抱く破壊衝動にも似た危険な欲求を必死に抑えている。ここにトムあたりがいれば、むしろ、よくぞここまでキレずに耐えたと賞賛するかもしれない。
「もし、お前が食わねぇってんなら、俺は、お前の口をこじ開けてデカイ方を突っ込むからな」
 ドスの利いた声に、帝人の喉がヒクッと鳴る。静雄の目が本気を告げているのが分かったのか、受け取ったあんぱんに視線を落した。
 暫し、沈黙。
 そして――――。
「わ、わかり、ました・・・・・・」
 肩を落として渋々ながら頷く帝人に、静雄は先程までのビリビリとした威圧感を引っ込めて満足そうに頷き、「おう、食え」と微笑んだ。
「いただきます・・・・・・」
 そういって静雄にペコッと会釈して、帝人は大きい方をひとまず袋の上に置き、手に持っていた小さい方から食べ始める。
 食べる予定だったものを帝人に与えた静雄は手持ちぶさたになった。何となくタバコも吸う気にならず、これといってすることがないので、帝人があんぱんをパクつくのをぼんやりと眺めることにした。小さい口で小さいあんぱんを頬張る姿は、ハムスターのような小動物を彷彿とさせ、静雄はフッと口元を弛める。
 やっぱり、目の前の小さな生き物は、とても小さい。もし、静雄が不用意に触れてしまえばあっけなく壊れてしまうだろうほどに。
(それは、困る)
 そう、困るのだ。一度触った位で壊れては困る。衝動は抑えつけられたが、しかしそれは持続して希求から渇望へと変化していた。たかが一度や二度満たされたところで治まるものでは到底ない。
(だから、デカくさせりゃいいんだ)
 帝人は、まだ成長期の少年だ。さすがに静雄ほど大きくなるとは思えないが、それでも今より大きくなれば、触れても大丈夫かもしれない。少なくとも一度や二度で壊れたりはしないだろう。
「あの・・・・・・」
 小さい方のあんぱんを食べきったらしい帝人が静雄に声をかけた。
「やっぱり、静雄さ――」
「まだ残ってるぞ」
 帝人に最後まで言わせることなく、残りのあんぱんを差し出した。
 有無を言わせない静雄に、帝人はへにょんと情けない顔をしたが、テコでも動かない静雄に折れたのか「いただきます」と静雄の手からあんぱんを受け取った。
「・・・・・・あの、聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
 また、食べる食べないの話だったら今度こそ本当に口の中へ突っ込んでしまおうか、しかしそうなると帝人に触ることになるなと物騒なことをチラリと考えながら、静雄は帝人の言葉を待った。
 しかし、帝人の口から出た言葉は、静雄の警戒したのとは違うものだった。
「なんで、全部くれるんですか? 最初は分けっこするつもりでしたよね?」
 当然といえば当然の質問に、しかし、静雄は何と言ったものかと返答に窮した。
(なんで? なんで・・・・・・)
 自分がここまで目の前の子どもにあんぱんを食べさせようと思ったきっかけ・・・・・・。
「あー・・・・・・、心臓?」
 なぜか疑問符をつけた自信のない言葉は、しかし帝人に衝撃を与えたらしい。
「しんぞう? えっと、もしかしなくても臓器の、ですか?」
「おう。お前の心臓が小っせぇと思ってよ。あ、もちろん体も小さいけどな」
「ち、ちいさい・・・・・・です、か。心臓も、体も、ですか・・・・・・?」
「ああ、小っせぇ」
「そ、う、です、か・・・・・・。小さい・・・・・・」
 哀れ、思春期街道邁進少年。そのガラスのハートにピシリと罅が。
 しかし、静雄はそんな帝人に気づくことも、また、色々と言葉が足りないということにも気づかず、帝人の弱々しい言葉に、
「おう、小っせぇ。だから、もう少しくらいデカくなれと思ってよ」
 ザックリ止めを刺した。